研究実績の概要 |
光解離片の間には、解離前の分子の対称性を反映した非局所的な相関, ”もつれ”, の存在が期待される。しかし、H2分子から生成したH(2p)+H(2p)ペア由来の光子ペアの放出角度相関は、予測された“もつれ”状態、混合アンサンブル、それらの線形結合のどれとも異なる状態にあった。光解離過程において、光励起直後の“もつれ”がどのように失われたかは興味深い。本研究では、測定角度範囲を広げた放出角度相関測定により、光子放出直前の原子ペアの状態を特定し、光励起直後の分子状態から原子ペアへの解離過程における“もつれ”の変化過程を明らかにする。 これまでのガスセルでは、放射光軸に直交した面内を2検出器が独立に回転した。しかし、この配置の実験結果のみでは、区別できない原子ペア状態がある。本研究では、2つの検出器が双極子面に無い配置での放出角度相関を測定するための新しいガスセルを製作する。今回のセルでは、6つの検出器の間の15通りの組合せの同時計数タイムスペクトルが同時に発生する。時間デジタル変換器への入力回路を工夫することで、15通りの組合せの同時計数タイムスペクトル全てを同時に測定できるようにした。ガスセルの製作は予定通り平成29年度に完了し、平成30年度には予備的な放出角度相関を得た。令和元年度は、実験的な放出角度相関を最終的に決定し、理論予測との比較により、”もつれ”原子ペアがスピン軌道相互作用により別の”もつれ”状態に変化したことを明らかにした。
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