研究課題/領域番号 |
17K05746
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
野崎 浩一 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 教授 (20212128)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 有機薄膜 / 過渡吸収 / アップコンバージョン / 拡散速度 |
研究実績の概要 |
本年度は、開発中の超高感度過渡吸収測定装置の性能をさらに改善するために、モニター光源の検討を行った。0.00001吸光度以下の過渡吸収測定を可能とするためには、モニター光の強度と安定性が重要な鍵である。本研究では、強発光性試料や紫外域の過渡吸収スペクトル測定を行うために、Xeアークランプ光源をパルス増強して得られる高輝度白色光をモニター光に用いている。しかし本装置のパルス増強周波数は1Hzであるため、スペクトル測定に数時間も要するという問題があった。そこでパルス増強回路を改良して、最大100V-300Aの電圧矩形波を10HzでXeランプに印可できる装置を新たに開発した。さらにXeランプを10Hzでパルス増強する際、プラズマアークが不安定になりやすいことが判明したので、国内3社の150Wのランプについて比較した結果、L2274が最も良好であることが判った。 有機ELの代表的なリン光材料であるIr(ppy)3の薄膜中での光励起状態について、発光測定と過渡吸収測定により検討を行った。Ir錯体の約200nm厚の蒸着膜を光励起すると、Ir錯体の精製方法や蒸着条件によって緑色発光を示す場合と黄色発光を示す場合がある。緑色発光の励起子は寿命が6ナノ秒と短く、当過渡吸収測定装置の時間分解能以下であるために有意なスペクトルが測定できなかったが、20ナノ秒の寿命をもつ黄色発光の励起子は、Ir(ppy)3とは異なる過渡吸収スペクトルを示した。また黄色発光励起子は緑色発光励起子からのエネルギー移動で生じていることから、膜中の不純物由来であると考えられる。 DPAとPtOEPの混合薄膜中での三重項消滅アップコンバージョンにおいて、PtOEPからのエネルギー移動から生じるDPA三重項の生成収率と膜中での拡散速度を決定し、アップコンバージョン効率を決定している原因について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、有機薄膜中の三重項状態やイオン種の濃度や生成量の直接観測を可能とするため、紫外~近赤外領域において10^-6以下の吸光度変化が検出可能な超高感度過渡吸収測定装置を開発することを目的としている。現在、数マイクロ秒以下の時間領域における測定精度は10^-5であり、まだ1桁程度精度が不足しているので、さらに光源の安定性やセンサーについて改良が必要である。さらに、Xeランプ光源のパルス増強を行っているためにランプの寿命が短く、本装置に適したXeランプの入手が困難になっていることなど深刻な問題がある。また、本過渡吸収測定装置の時間分解能は20ナノ秒であるが、実際に固体薄膜中での過渡種の観測を行った結果、もう少し時間分解能を高くする必要があることが判った。
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今後の研究の推進方策 |
Xeランプ光源のパルス増強装置については、今年度改良に成功したので、広帯域超低雑音光センサーを新たに開発して、当初予定していた検出感度10^-6レベルで時間分解能5ナノ秒以下の装置性能の実現を目指す。本装置に適したXeランプについては入手が容易なものから代替品を探していく。
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