光機能性の有機薄膜素子の効率や光劣化の一因である三重項励起子やイオン種などの非発光性の化学種の濃度や生成収率の観測を可能にするため、紫外~近赤外領域において超高感度で過渡吸収を測定するための装置を開発した。代表的な有機EL材料であり、緑色リン光性イリジウム錯体の蒸着膜について時間分解発光測定と過渡吸収測定による検討を行い、薄膜中の励起子のトラッピングダイナミクスとその生成物のスペクトルについて検討した。また、高感度過渡吸収測定によってDPA:PtOEP混合薄膜の三重項三重項消滅(TTA)アップコンバージョン過程の反応収率を評価し、薄膜中のTTA-UCの効率を評価した。 最終年度は、有機ELの代表的なリン光材料であるfac-Ir(ppy)3の薄膜中での光励起状態について、発光測定と過渡吸収測定により検討を行った。前年度の研究により、溶液中で緑色発光を示すIr(ppy)3が固体状態で黄色発光を示す原因は、試料に含まれる極微量の不純物であることが示唆された。この不純物の化学的性質はfac-Ir(ppy)3と類似しており、カラム精製や昇華精製などでは分離することが困難であったので、蒸気拡散法による再結晶について検討を行った。その結果、不純物の少ない緑色発光を示す比較的大きな単結晶を得ることに成功し、純粋なfac-Ir(ppy)3の単結晶および蒸着膜の光物性を明らかにした。 固体薄膜中での光緩和過程をフェムト秒の時間分解能で観測するために、フェムト秒過渡吸収スペクトル測定装置を新たに開発した。本措置の特徴は、薄膜試料を超高速回転させながら測定を行うことで、薄膜試料の光損傷を減らし、高繰り返し積算を可能にしたことである。これにより薄膜中における0.0001の過渡吸光度をフェムト秒の時間分解能で観測できるようになった。
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