研究課題/領域番号 |
17K05749
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
福田 良一 京都大学, 実験と理論計算科学のインタープレイによる触媒・電池の元素戦略研究拠点ユニット, 特定准教授 (40397592)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 量子化学 / 計算化学 |
研究実績の概要 |
分子の量子化学計算により高圧力の効果を考慮する事ができる方法論であるXP PCM法を用いて、分子の分光学的な物性に対する圧力効果を検討した。本年度は主に、以下の2つの分子系について研究を行った。 1.PYPはバクテリアの青色光受容体であり、光吸収により引き起こされるp-クマル酸チオエステルのcis-trans異性化反応により、信号伝達を行っていると考えられている。タンパク質中のような混みあった環境では、通常の溶媒中とは異なる反応経路をとる可能性があり、高圧力のモデルを用いれば混みあった環境の効果を抽出できると期待される。本研究では、一重項励起状態を経て異性化する経路は、色素分子の体積変化が大きく高圧力下では不利であり、基底状態で異性化する経路の方がコンパクトで高圧力下では有利であることが分かった。タンパク質中でも光励起直後に基底状態に失活し、その際に得る余剰の熱エネルギーを使って異性化している可能性を示した。 2.アントラセンシクロファン分子とその光二量体の [4+4]環化付加反応と逆環化付加反応は特異な圧力依存性を示す事が知られているが、反応過程を分光学的測定により観測可能である事をXP PCM法による理論計算から示した。アントラセンシクロファン分子は、圧力により2つのアントラセン分子の相互作用の強さが変わるので、圧力効果をUV-visスペクトルの変化から測定可能である事を理論計算から予測した。アントラセン光二量体は、末端ベンゼン環の成すはさみ角度が圧力により大きく変化する。一方、双極子モーメント微分ベクトルの大きさは、ベクトル合成則から、このはさみ角にとても敏感である。双極子モーメント微分ベクトルの大きさは赤外分光で観測可能であるから、結果、はさみ角の圧力変化を赤外分光で観測できる事を理論計算から予測した。圧力による分子変形の測定に高圧赤外分光が有効である事を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画していた高圧力下にある分子系の分光学的物性を理論から予測することが可能となった。さらに、高圧分光物性の発現に関する新しいメカニズムを見出す事が出来た。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通りに、分光学的物性以外の分子物性に対する圧力効果の研究を進め、圧力応答分子の設計指針を得ることを目指す。また、研究成果の公表を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
既存設備を利用した研究を進めつつ専用の計算機を購入する計画であったが、既存設備を利用した研究が計画以上に順調に進んだ。本年度は既存設備を利用した研究を優先して、次年度の研究に予算を集中することでより大きな成果を上げることができると判断した。次年度の研究計画に沿った計算機の仕様策定を行い、必要な計算機を購入する予定である。また、学会参加費と旅費を別予算から支出する事ができたため、本研究に関わった大学院生が、次年度の学会にて発表する旅費に充填した方が良いと判断した。
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