研究実績の概要 |
2022年度は、コロナ禍の影響はあったが、3月に学会や研究会での発表ができるようになり、京都、愛媛、千葉で発表を行った。 これまで有機ラジカル誘導体イオンからのみ分極対イオン層がよく得られると考えていたが、2020年度頃からラジカルを含まない小さくて単純な有機アニオンを用いてきている。その結果、ClC2H4SO3-のBEDT-TTF塩β''-(BEDT-TTF)2ClC2H4SO3(1)において、室温ではドナーシート(D)と垂直方向にアニオン(アニオンシートを↑で示し、矢印の方向は分極方向を現す)が分極したType III (…↑D↓D↑D↓…)の構造を取っている塩が、降温210 K、昇温260 Kで相転移し(β''-β''-(BEDT-TTF)2ClC2H4SO3(1L), 結晶学的に独立なドナーシートはA, Bの2つある)、低温ではわずか9°だが、アニオンの分極がドナーシートに対して傾くことが判った。つまり、Type Iの構造(…←B→A←B→A←…)の成分があることになる。この1Lでのドープの出現の直接的な証拠は得られていないが、間接的な証拠はいくつか得られていて、つまりこの相転移がtemperature-induced non-doped-to-doped transitionであることが示唆された。 この1LとBrC2H4SO3-のBEDT-TTF塩β''-β''-(BEDT-TTF)2BrC2H4SO3(2)は室温から少なくとも100 Kまでは同形で、2ではアニオンは6.5°ほどドナー層から傾いている。この塩は70 Kで金属-絶縁体(MI)転移を示すが、抵抗は一番小さなところから4.2 Kまでに16倍ほどしか上昇せず、転移はブロードであった。私達は常圧ではドープがあることによって絶縁層の抵抗が極端に低くなっていると考えている。このサンプルに2 kbarほどの静水圧を印加すると、MI転移はシャープになり、抵抗は4桁以上上昇した。そこで私達は、静水圧の印加によってアニオンの傾きが減るか無くなり、ドープが消失したため、相転移がシャープになった、つまり、pressure-induced doped-to-non-doped transitionが起きたと考えている。
|