研究課題/領域番号 |
17K05756
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
海野 雅司 佐賀大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50255428)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 分子分光学 / 生物物理学 / 振動分光 / 光受容タンパク質 / 国際研究者交流 |
研究実績の概要 |
本研究の大きな目的は申請者らが開発してきたラマン光学活性分光装置の更なる高感度化と、生命科学における重要課題への適用である。本手法は円二色性分光(いわゆるCD)のラマン分光版で、通常のラマン分光に比べて極めて多くの構造情報を提供する。特に溶液中では平面構造の分子がタンパク質中ではキラルな非平面構造になることに注目し、活性中心である補欠分子の構造的な歪みを検出できることを示してきた。 初年度(H29)においては、我々が開発して来た近赤外励起ラマン光学活性分光装置の更なる高感度化に取り組む。本研究で注目したラマン光学活性分光は右回りと左回りに円偏光した励起光を用いて観測したラマン散乱光の強度差の符号が鏡像異性体では異なる点を用いた分光法であり、我々が開発した装置は入射円偏光方式と呼ばれる手法を採用している。そこで、平成29年度は既存装置を散乱円偏光方式と呼ばれる手法に変更/改良した。装置改良はほぼ終わり、現在は装置の最終調整を行っている段階である。 また平成29年度はシアノバクテリアと呼ばれる光合成をする微生物において、光合成系タンパク質の保護機能をもったオレンジ・カロテノイドタンパク質について、暗状態と光反応中間体のラマン光学活性スペクトルを測定することに成功した。その結果、このタンパク質の光反応機構を明らかにすることができた。さらに、近赤外ラマン分光装置を用いた表面増強ラマン散乱の測定をすることができ、ラマン光学活性分光への応用の基盤を確立することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は申請者らが開発してきたラマン光学活性分光装置の更なる高感度化を目的に、装置の大幅な改良に取り組んだ。従来の装置は右回りと左回りに円偏光した励起光を用いて観測したラマン散乱光の強度差を観測する入射円偏光方式と呼ばれる手法を採用していたが、今年度は無偏光の入射光で観測したラマン散乱光の左右円偏光成分の差を検出する散乱円偏光方式の装置を開発した。改良型装置の組み立てはほぼ終了し、現在は装置の最終調整を行っている段階である。 また応用研究としてはシアノバクテリアと呼ばれる光合成をする微生物において、光合成系タンパク質の保護機能をもったオレンジ・カロテノイドタンパク質について、暗状態と光反応中間体のラマン光学活性スペクトルを測定することに成功した。その結果、このタンパク質の光反応機構を明らかにすることができた。 表面増強ラマン散乱に関しては、システインなどのSH基をもつ系に関して測定を行い、金/銀コロイドを用いた表面増強ラマンスペクトルの測定に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は初年度に組み立てた散乱円偏光方式のラマン光学活性分光装置を完成させることに注力する。標準試料の測定などから装置が正常に稼働することを確認したあとは、光受容タンパク質などの系への応用研究を展開する。具体的な研究対象としてはp-クマル酸を発色団とする光センサーのイエロープロテインや微生物型ロドプシンについて、ラマン光学活性スペクトルの測定を行う。これらの試料は連携研究者の方々など(北海道大学・菊川峰志 講師、東邦大学・細井晴子 准教授、オクラホマ州立大・W. D. Hoff教授など)から提供して頂く予定である。 また、表面増強ラマン散乱に関しては、界面活性剤などを用いて安定化させた金/銀コロイドなどの系を用い、表面増強ラマンスペクトルおよび表面増強ラマン光学活性スペクトルの測定を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
顕微ラマン分光装置用の特注仕様の光ファイバーの購入を計画していたが、アダプターを自作することで、安価な市販品を使用できた。このため特注品と市販品の差額分が次年度の繰越し金となった。次年度使用額を活用し、国内学会での発表や資料収集を行う計画である。
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