研究課題
本研究の大きな目的は申請者らが開発してきたラマン光学活性分光装置の更なる高感度化と、生命科学における重要課題への適用である。本手法は円二色性分光(いわゆるCD)のラマン分光版で、通常のラマン分光に比べて極めて多くの構造情報を提供する。特に溶液中では平面構造の分子がタンパク質中ではキラルな非平面構造になることに注目し、活性中心である補欠分子の構造的な歪みを検出できることを示してきた。2019年度では、我々が開発して来た近赤外励起ラマン光学活性分光装置を用い、微生物型ロドプシンを中心に複数の光受容体への応用研究を行った。その結果、ラマン光学活性スペクトルがレチナール発色団のコンフォメーションの違いを鋭敏に反映し、その符号も試料によって大きく変化することを見出した。試料の違いとしては、微生物型ロドプシンの多量体化/単量体化に伴う変化も見いだすことに成功した。またラマン光学活性スペクトルの違いを分子構造レベルで解釈するため、量子化学計算による解析を行った。量子化学計算ではタンパク質の部分を分子力学(Molecular Mechanics、MM)で取り扱い、発色団などの活性部位を量子化学(Quantum Mechanics、QM)で計算するハイブリッド計算であるQM/MM法を活用しすることで実測スペクトルの主な特徴を計算化学的に再現できることを明らかにした。以上の研究から、ラマン光学活性分光と計算化学的な手法を用いることで、光受容タンパク質の活性部位構造を精密解析できることを明らかにした。
すべて 2019 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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