研究課題/領域番号 |
17K05757
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
東 雅大 京都大学, 工学研究科, 准教授 (20611479)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 光捕集複合体 / 励起エネルギー移動 / 理論解析 / FMOタンパク / 分子シミュレーション |
研究実績の概要 |
本年度は、まず、昨年度に引き続き、階層方程式を用いて光捕集アンテナFMOタンパクの励起エネルギー移動ダイナミクスの解析を行った。昨年度の解析では不十分だったところをより高精度に取り扱い、より定量的な結果を得ることができた。これらの研究成果は、昨年度の吸収スペクトルの解析と合わせて、論文として出版した。また、別の菌種由来のスペクトルの形状が違うFMOタンパクにおける励起エネルギー移動ダイナミクスの解析も進めている。 さらに、FMOタンパクやLH2などの光合成細菌の光捕集アンテナに含まれる色素バクテリオクロロフィルaの第二励起Qx状態から第一励起Qy状態への緩和過程の解析も行った。このQx状態からQy状態への緩和時間は50 fsと非常に高速であることが実験的に知られているが、その分子論的機構は不明であった。このような電子励起状態の超高速緩和過程には円錐交差が重要な役割を果たすが多い。そこで、まず、量子化学計算により円錐交差の探索を行った。その結果、複数の円錐交差の極小点を見つけることができたが、それらのエネルギーはQx状態の安定構造におけるエネルギーよりも大幅に大きかった。また、Surface hopping法を用いた非断熱分子動力学シミュレーションにより緩和過程を解析したが、円錐交差付近での遷移は見られなかった。これらの結果から、バクテリオクロロフィルaのQx状態からQy状態への緩和は、円錐交差はあまり重要でないことが示唆された。しかし、緩和時間については、実験値と定量的な一致が見られないため、今後さらに計算手法の検討を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、これまでに得られた研究成果をまとめて論文として出版した。また、当初の予定にはなかったが、光合成色素の第二励起状態から第一励起状態への緩和過程の解析も進めており、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、別の菌種由来のスペクトルの形状が違うFMOタンパクにおける励起エネルギー移動ダイナミクスの解析を進める予定である。また、バクテリオクロロフィルaの第二励起状態から第一励起状態への緩和過程における量子化学計算手法や配位子、溶媒の影響を検討し、より詳細に解析を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年3月に日本化学会年会で研究成果を発表するために旅費として利用する予定であったが、新型コロナウィルスの影響で中止となったため残額が生じた。この残額は次年度に研究成果を発表するために使用する予定である。
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