研究課題/領域番号 |
17K05759
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
本間 健二 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 特任教授(名誉教授) (30150288)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 孤立分子状態イオン / レーザー誘起蛍光スペクトル / 分散蛍光スペクトル / 高振動励起状態の発光 / 気相タンパク質のコンフォーメーション変化 |
研究実績の概要 |
本研究は、エレクトロスプレーイオン化(ESI)法によって気相中に単離されたイオン種に、発光を観測する分光法(レーザー誘起蛍光(LIF)法、分散蛍光法(DF))を適用し、電子励起状態のエネルギーやダイナミクスを観測するための、一般的な方法として確立することを目的としている。 本年度の計画は次の2点であった。(1)昨年度実現したESI-IT(イオントラップ)-LIF/DF法によってイオン種のLIF観測およびDF観測を進め、適用できるイオン種を拡張すると共に、成果を論文として公表する。(2)海外との共同研究を積極的に進め、ESIによって気相中に取り出したタンパク質など生体高分子のレーザー加熱によるコンフォーメーション変化を観測する。 レーザー色素、ローダミン590ならびにローダミン640イオンのLIF/DF観測を行い、これまで観測されている可視光の吸収帯だけでなく、紫外領域の吸収に対応するLIF及びDFスペクトルの観測に世界で初めて成功した。DFスペクトルは、溶液中と異なり、励起波長に依存することが明らかになった。第1電子励起状態の振動励起状態からの発光が観測されたものと考えられる。この成果については、英国王立協会のPCCP誌に論文として発表した。また、発光性のアミノ酸であるトリプトファンイオンについても観測を行ったが、気相中では発光が観測されなかった。過剰な振動エネルギーを緩和する機構が働かないためであると考えられた。 インディアナ大学化学科のClemmer教授の研究室を2回訪問し、ESIで生成したミオグロビンイオンの温度により誘起されるコンフォーメーション変化の観測を行った。赤外線レーザーによる加熱で同様の観測を行い、コンフォーメーション変化に複数のステップのあることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
孤立分子状態にあるローダミン590およびローダミン640イオンについて、レーザー誘起蛍光スペクトルおよび分散蛍光スペクトルの観測に、低繰り返しナノ秒レーザーを用いて初めて成功した。ナノ秒レーザーは容易に紫外領域の発振が得られるため、可視領域の第一吸収帯ばかりではなく高い電子状態を生成しそのダイナミクスを観測することができる。この特長を活かし、高い電子励起状態から、非常に高く振動励起した第一電子励起状態が生成し発光する現象を、初めて観測することができた。また、10Hzという低い繰り返しのため、発光によってできた基底電子状態内で振動緩和が進み、その結果解離反応がほとんど起こらないという知見も得ることができた。 また、インディアナ大学との共同研究では、タンパク質の温度変性について、レーザー加熱を用いて段階的な変化が起こっていることを明らかにすることができた。ESIと赤外線レーザーを積極的に結合することによって、タンパク質のコンフォーメーション変化の詳細を明らかにする道を拓きつつあると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、(1)30年度までの成果の取りまとめを中心として、(2)インディアナ大学ならびにユタ大学との共同研究を行う。インディアナ大学では、ESIにより生成するタンパク質イオンのコンフォーメーションをイオン移動度質量分析計を用いて決定することを軸にした観測を計画する。即ち、熱平衡条件下における測定として、温度によるコンフォーメーション変化をイオンの電荷数を選択して観測し、その機構の詳細を解明する。また、ESIで生じる微小液滴に赤外線レーザーを照射してその液滴の温度を上げ、同時に溶媒の蒸発を促しコンフォーメーション変化がどのように進むかを観測する。
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