本研究は、エレクトロスプレーイオン化(ESI)法によって気相中に単離されたイオン種に、発光を観測する分光法(レーザー誘起蛍光(LIF)法、分散蛍光法(DF))を適用し、電子励起状態のエネルギーやダイナミクスを観測するための、一般的な方法として確立することを目的としている。 当初計画していた気相中に単離したイオン種の発光による観測は、レーザー誘起蛍光法および分散蛍光法ともに実現し、英国王立協会のPCCP誌に論文として発表した。即ち、使用波長範囲の非常に広いナノ秒レーザーを用いて、紫外領域のレーザー誘起蛍光スペクトルの観測に初めて観測し、また紫外光によって生成される高い電子励起状態の挙動を孤立分子状態のおいて初めて報告することができた。 本年度は更に発光観測によって得られる情報と相補的な気相イオン種の構造情報を得る手法として、イオン移動度測定法を海外との共同研究により積極的に進める予定であった。この分野の世界的な研究者であるインディアナ大学化学科のClemmer教授の研究室へ1ヶ月間滞在し共同研究を行った。分子量16000余りのタンパク質ミオグロビンを対象として、水溶液中のミオグロビンが温度上昇により起こるコンフォーメーション変化の観測をイオン移動度分析法で行った。つまり、ミオグロビンイオンを溶液から温度可変ESIチップを用いて気相中に取り出し質量選別・イオン移動度測定を行なった。電荷数および鉄ポルフィリンの脱離状態からマクロな変化を観測し、イオン移動度から衝突断面積を求め、各電荷状態毎にコンフォーメーションを決定した。また、ESIによって始めに生じる微小液滴=微小溶液へ赤外線レーザーを照射・加熱して同様の観測を行い、溶液の加熱=平衡条件との比較を行い、加熱-コンフォーメーション変化の初期過程についての情報を得た。この成果はアメリカ質量分析学会誌に掲載予定である。
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