研究課題/領域番号 |
17K05760
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研究機関 | 城西大学 |
研究代表者 |
見附 孝一郎 城西大学, 理学部, 教授 (50190682)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 有機太陽電池 / 色素増感太陽電池 / 過渡発光 / 励起状態ダイナミクス / 酸化チタン / 時間分解分光 / 電子移動 / 反応速度論 |
研究実績の概要 |
2018年度はペロブスカイト太陽電池の層構成と成膜法を検討した。まず、緻密TiO2層の作製時に電気炉で高温焼成することでTiO2層がFTO基板に強く結合され高効率の電子輸送が実現された。第二に、TiO2懸濁液中のP90とP25の組成や分散剤の添加量を変えることで、多孔質TiO2層の間隙率を高めて粒径50 nm以上のPv結晶が入り込んで三次元的な接合を形成できるようになった。第三に、PbI2溶液の塗布後に基板を真空中に静置し溶媒を除去することで、CH3NH3Iとの反応による結晶成長を促進できた。第四に、厚み約40 nmの金接点を真空蒸着することでPv結晶の破壊や劣化を防止できた。以上4つの改善の結果、Jscが格段に上昇し5%を超える変換効率が得られた。 並行してヨウ化鉛ペロブスカイト中のエキシトンの拡散長およびその寿命を知るために、時間分解分光法によってエキシトンからの光ルミネッセンスを分析した。その際に、ストリークカメラと分光器から構成されるレーザー励起時間分解発光分光装置を用いた。太陽電池の光電変換電極の過渡発光を検出しデコンボリューション法で発光寿命を推定した。試料は石英基板、緻密酸化チタン薄膜、ペロブスカイト結晶、電荷輸送物質の4層構造を持つ。電荷輸送物質として、電子輸送体のスピロ化合物またはホール輸送体のPCBMを用いると、780nm付近の発光の寿命が1ns程度まで減少した。この結果から、平面ヘテロ接合面でエキシトンが電子とホールに分離すると予想された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は主にペロブスカイト結晶の足場となる酸化チタンTiO2のナノ粒子層の最適形状を検討した。導電性ガラスの上にエアスプレー法で緻密TiO2層を作製したのち、TiO2懸濁液をスピンコートし、550℃の電気炉で焼成し多孔質TiO2とした。この懸濁液は、アナターゼ型TiO2ナノ粒子に増粘剤、分散剤と界面活性剤を混ぜてペースト化し、エタノールで希釈したものである。その際に、増粘剤のエチルセルロースおよび2種類のナノ粒子、P90(平均粒径 約15 nm)とP25(約25nm)の含有率を変えることで複数のペーストを調製した。組成を系統的に変えて発電性能を調べたところ、P25、P90、エチルセルロースの重量比を2:2:1にしたときに最も高いエネルギー変換効率1.54%が得られた。粘度が高すぎると多孔質TiO2層に段差や凹凸が生じて、ペロブスカイト結晶の大きさや分布が不均一となり変換効率が低下すると考えられる。逆に、粘度が低すぎても性能が落ちるという結果は、TiO2層の厚みが不足して、ペロブスカイトの結晶成長が抑制されて吸光率が下がるためと解釈される。 このように、エキシトンの拡散長や寿命は、酸化チタンナノ粒子の界面構造に影響を受けていることは明らかである。しかし、本研究を進展させる際の最も大きな障害は、大学の共通施設に備えられている電子顕微鏡の分解能が50nm程度しかなく、基板表面の酸化チタンナノ粒子とペロブスカイト結晶の形態がはっきりしないという問題である。現在は他大学に我々の試料を持ち込んで、電界放出型電子顕微鏡画像を借用して画像観測しているが、極めて効率が悪く研究に支障をきたしている。
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今後の研究の推進方策 |
ペロブスカイト薄膜のみの発光寿命 t1 に対する電荷輸送物質を積層させた試料の発光寿命 t2の比(t1/t2)から、1次元拡散方程式に基づき各電荷輸送子の拡散長を計算する。ここで観測波長はバンド間遷移の位置とする(CH3NH3PbI3ならば760 nm)。 ただし、ペロブスカイトのみの発光寿命は、現有のストリークカメラの最長掃引時間3.7 nsでは不足している(厚み65 nmのCH3NH3PbI3で4.5 ns、厚み200 nmのCH3NH3Pb(I1-xBrx)3で100 ns以上)。ストリークカメラの改造で対応する予定であったが、販売元からは旧型機種のため電子部品の供給ができないと言われた。そのため、今年度の校費で、サブナノ秒からミリ秒の蛍光寿命を測定できる最新型装置を購入することになった。この装置の導入により本課題は大きく進展すると期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
ダイナミックレンジが広い蛍光寿命測定装置を、本学の校費で購入する目途がついた為、当該装置が導入される2019年度夏以降に、有機太陽電池と分光測定試料の製作点数が加速度的に増加すると予想された。このため、2018年度の科研費の使用を差し控えて、2019年度中の化学薬品や光学部品などの消耗品の購入に必要な資金を確保した。
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