研究課題/領域番号 |
17K05762
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
石川 春樹 北里大学, 理学部, 教授 (80261551)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 水素結合ネットワーク / 構造変化 / 異性化 |
研究実績の概要 |
本研究では,分子クラスター研究を発展させ,凝集系の反応,動力学の理解に貢献するために,水素結合構造に対する温度効果,揺らぎの問題に取り組む。気相クラスター研究は,静的な構造決定から動的な構造の解明へと進んでいる。構造揺らぎはクラスターの観点では局所安定な構造間の異性化とみなすことができる。そこで,局所安定構造を識別した測定が可能なクラスターの特徴を活かして,構造揺らぎに対する分子論的理解を深めるために,我々が研究を進めてきた水和フェノールカチオンを対象とし,温度可変イオントラップ装置を利用した分光測定を発展させた赤外励起による水素結合構造変化の直接観測を行う。従来よりも微視的で詳細な構造の揺らぎに対する情報を得ることを本申請研究の目標とする。 本年度は,1.冷却した水和フェノールカチオンの赤外スペクトルの測定,2.赤外励起によるクラスターイオンの異性化の観測手法の確立,3.量子化学計算を行う計画であった。実験1,2に関しては,まだスペクトルの質は高くないが,当初の目的の赤外スペクトルおよび赤外励起による異性化の観測に成功した。また,研究計画で記載の8重極イオントラップを製作・導入が完了し,動作の確認を行った。現時点で改良前と同等以上の性能が得られているので,今後条件を詰めることでより安定して質の高いスペクトルの測定が期待される。3の量子化学計算については,GRRM法を用いて異性化経路を探索した結果,今回観測された異性化が理論面でもエネルギー的に可能であることなど,実験結果をサポートする結果が得られている。 これらの結果については,既に2017年9月の分子科学討論会,2018年3月の分子分光研究会で発表済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,実験,計算両方のアプローチを取る。実験に関しては,スペクトルの質が十分ではないものの,本研究課題の中心となる振動励起による水和フェノールカチオンの異性化反応の観測に成功し,計画通りの実験の達成が十分に見込まれる結果を得た。また,計算においても予備的な計算が終了しており,こちらも計画通りの進捗である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度後半で導入したオクタポールイオントラップの動作環境,実験条件がまだ最適化されていないので,今後の実験の質を上げるために,まず条件の最適化を吟味する。まず,極低温での赤外励起による水素結合構造の異性化を測定する。その後,測定温度を徐々に上げて,異性化反応の温度依存性を調べる。 また,実験と並行して量子化学計算による異性化反応経路の探索,反応速度の検討を行い,実験と併せた考察を進める。
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