研究課題/領域番号 |
17K05766
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
松原 世明 神奈川大学, 理学部, 教授 (60239069)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 化学反応 / 量子力学計算 / 分子動力学計算 / 動的因子 |
研究実績の概要 |
我々は、量子力学的(QM)手法と分子動力学(MD)法を組み合わせたQM-MD法や量子力学的(QM)手法と分子力学(MM)法を組み合わせたマルチスケールONIOM法にさらに分子動力学(MD)法を組み合わせたONIOM-MD法を独自に開発し、熱振動を考慮した化学反応の解析を行っている。近年、Si原子上での置換反応やゲルマンノンの反応において、分子内の運動エネルギー分布が反応性と関係していることを示し、溶媒分子の熱揺らぎが反応の推進力となっているという溶媒効果の新たな側面も発見した。このように、熱振動を考慮することで化学反応の推進力に関する新たな知見が得られると考えられる。化学反応を推進する動的因子の解析をさらに押し進めることが本研究の目的である。具体的には、SN2反応、ゲルマノンのその他の反応、E1cB的反応、Wilkinson錯体触媒反応について解析を行う当初の計画に基づいて研究を進めている。 昨年度は、ゲルマノンの反応、SN2反応、E1cB的反応に加え、E2反応について、MDシミュレーションが可能な具体的な反応の探索およびQM計算による準備を行い、実際にそれらの反応のMDシミュレーションに成功した。本年度は、それらの中のSN2反応の解析を行った。具体的には、2-クロロブタンとOH-の気相中と水溶液中での反応である。解析の結果、運動エネルギーが反応に関与する原子に集中し、それらの原子の速度ベクトルが順次ある要件を満たしたとき反応が起こること、また、溶液中では、周囲の溶媒分子の熱運動の効果によって気相とは異なる速度ベクトルの要件を満たすことができるため反応速度が早くなることが分かった。その他の反応のMDシミュレーションの解析は来年度行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、SN2反応、ゲルマノンの反応、E1cB的反応、Wilkinson錯体触媒反応について解析を行うことを計画していたが、昨年度も記述したように、まず、より単純な有機反応について優先的に解析を行うべきであるとの判断から、Wilkinson錯体触媒反応を行わずE2反応を追加して行っている。昨年度、既に全ての反応についてMDシミュレーションに成功している。今年度は、SN2反応について解析を終了し、論文投稿を済ませた。全ての解析が他に類を見ない解析なため、最初は手探りの部分も多くかなりの時間を要したが、その分、論文内容は充実したものとなった。来年度は、今年度の解析のノウハウを十分に生かしてその他の反応の解析を押し進め、終了次第順次論文投稿する予定である。したがって、研究はおおむね順調に進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
進捗状況で記述したように、本研究では、当初、SN2反応、ゲルマノンの反応、E1cB的反応、Wilkinson錯体触媒反応について解析を行うことを計画していたが、より単純な有機反応について優先的に解析を行うべきであるとの判断から、Wilkinson錯体触媒反応を行わずE2反応を追加して行っている。MDシミュレーションは、既に全ての反応について成功しており、SN2反応については解析が終了し論文投稿を済ませた。今後は、その他の反応の解析を押し進め、終了次第順次論文投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度、4件の国際会議の招待講演の出張旅費で直接経費の半分弱を使用したため計算機を購入できず、その残金と今年度の直接経費と合わせて、予定通り今年度計算機を補充した。残りを国際会議の出張旅費に当てる予定だったが、出張件数が予定より少なかったため残金が発生した。残金は、次年度、パソコンの補充に使用する予定である。
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