研究実績の概要 |
本研究では有機電子ドナー・アクセプターの電子状態調性の新しい手法として非共有結合性相互作用を用いることを提案し、その有効性を検証することを目的としている。本年度はよく定義された配置を有する水素結合を導入したアントラキノンを系統的に合成し、非共有結合性相互作用である水素結合がアントラキノンの電子状態を調性できるか検討を行った。 アントラキノンの1,4,5,8-位にアミノ基を導入することで強い分子内水素結合が生じると予想される。溶液中においても分子内水素結合を保持することを狙い、嵩高いアリールスルホニル基をアミノ基に連結した化合物を設計した。設計した化合物を合成し、その酸化還元特性をサイクリックボルタンメトリー法によって評価したところ、合成した化合物はアントラキノンと比較して明瞭な電子受容性の向上が認められた。これは電子供与性置換基のアミノ基の誘起効果から予想される結果(電子受容性の低下)とは異なる結果であり、水素結合がアントラキノンの電子状態に大きく影響を与えたことが示された。このことはアミノ基をN-メチル化し、水素結合の形成を不可能とした化合物との比較からも明瞭に確かめることができた。一方で、アミノ基上に嵩高い置換基がない場合は、水素結合性相互作用に基づく酸化還元電位の変調は認められなかった。このことは溶液中での水素結合部位の構造の固定が、水素結合相互作用による電子状態の調性に必須であることを示す結果である。
|