研究実績の概要 |
本研究では有機電子ドナー・アクセプターの電子状態調性の新しい手法として非共有結合性相互作用を用いることを提案しその有効性を検証すること、および合成した化合物の物性を探索することを目的としている。本年度は昨年度に調査した複数のアリールスルホニル基を有するアントラキノン類の結晶構造解析を行い、それらの分子構造・分子集合体構造を明らかにし、構造に由来する選択的な溶媒吸着を示す化合物を見出すことができた。 アリールスルホニル基を導入したアントラキノンは分子内のN-H…O=C水素結合と双極子相互作用によってよく定義された立体的な分子構造をとることを単結晶X線構造解析によって明らかにした。それらの分子集合構造は複数の非共有結合性相互作用と立体的要因に影響を受けており、結果としてアリールスルホニル基の置換位置によって大きく異なる分子集合体を形成していた。 検討した化合物群の中で1,8-位にトルイルスルホンアミド基を導入したアントラキノンと1,4,5,8-位にtert-ブチルスルホンアミド基を導入したアントラキノンではそれぞれ、アセトニトリルおよび置換ベンゼンを包摂した結晶を与えることを明らかにした。これらの結晶では選択的な溶媒の吸脱着および優先的な溶媒の包摂が可能であることを明らかにした。1,8-位にトルイルスルホンアミド基を導入したアントラキノンのアセトニトリル選択的な吸着ではホスト―ゲスト間の双極子相互作用が重要な役割を果たしていることが確かめられた。
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