研究課題
フラーレンやカーボンナノチューブの発見以降,非平面構造ナノカーボンはその造形美のみならず,特異な構造に由来する機能や物性を有することから大きな注目を集めている.しかしながら,一義的な構造を有する分子として,非平面構造ナノカーボンを合理的にボトムアップ合成することは未だに難しい.本研究では,ベンゼン環をメタ位で連結した大環状分子に着目することで,非平面構造ナノカーボン分子の合理的設計・合成を行うことを目的としている.主題となる研究項目としては,1. 合成と構造解析,2. 集積構造の解明,3. 分子包接と表面吸着となっている.平成29年度は,ボウル状構造を有するナノカーボン分子,サドル状構造を有するナノカーボン分子の合成および構造解析に成功した.具体的な成果としては,1. 同一の合成戦略で,ボウル状構造及びサドル状構造という異なる非平面構造ナノカーボン分子を合理的に設計・合成できることを実証(論文投稿中),2. 合成したナノメートルサイズのナノカーボン分子がエントロピー駆動で自己集積することを解明,3. ボウル状構造ナノカーボン分子内へフラーレンがエントロピー駆動により包接されることを明らかにした(Org. Lett.誌に報告),ことが挙げられる.また当初計画にはなかったが,得られた興味深い特性として,4. これらの分子の中心骨格となる大環状分子が磁場に応答して有機EL発光の色調を変化させるという性質を明らかにするにも至っている(APL Mater.誌に報告).以上のように,非平面構造を有するナノカーボン分子の設計・合成に止まらず,合成した分子が有するナノメートルサイズの非平面構造に由来した性質や機能を明らかにするまでに至っている.
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画では,研究初年度となる平成29年度は主題となる研究項目のうち,1. 合成と構造解析を達成するところまでを目標としていた.しかしながら,当初の計画以上に研究が進展しており,ボウル状及びサドル状という異なる非平面構造ナノカーボン分子の 1. 合成と構造解析を達成したのみならず,次年度以降に予定していた,2. 集積構造の解明,3. 分子包接と表面吸着の面でも成果を挙げ,論文として発表するに至っている.また,当初の計画にはなかった新しい非平面構造ナノカーボン分子群の設計・合成にも既に着手しており,当初の計画以上に研究が進展している.
今後は,本研究で提案している「大環状分子を基盤とした非平面構造ナノカーボン分子の合理的設計・合成」が,ボウル状やサドル状構造に止まらず,様々な非平面構造ナノカーボン分子合成に適用可能であることを実証していく.同時に,本年度に得られた,ナノメートルサイズの湾曲構造がエントロピー駆動でゲスト分子を包接するという知見を活かして,機能性ゲスト分子の包接による特異的な物性の発現を目指す.
当初は量子化学計算用のパソコンの購入を予定していたが,計画を変更し,当該年度はターゲット分子の合成ルート開拓に注力した.合成も小スケールで行なったため,試薬・物品費の購入額が当初予定よりも低く済むこととなったことも次年度使用額が生じた理由である.既に当該分子群に関しては合成ルートの開拓も完了したため,今後は応用に向けた大量合成や,さらなる新分子の設計・合成を行なっていく予定である.これらを行なっていくためには,大スケールで試薬・物品購入が必要となるため,次年度使用額をそれらに充てる予定である.
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