研究課題/領域番号 |
17K05772
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
池本 晃喜 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (30735600)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 大環状分子 / ナノカーボン / 芳香族炭化水素 / ジオデシック / 湾曲 |
研究実績の概要 |
フラーレンやカーボンナノチューブの発見以降,非平面構造ナノカーボンはその造形美のみならず,特異な構造に由来する機能や物性を有することから大きな注目を集めている.しかしながら,一義的な構造を有する分子として,非平面構造ナノカーボンを合理的にボトムアップ合成することは未だに難しい.本研究では,ベンゼン環をメタ位で連結した大環状分子に着目することで,非平面構造ナノカーボン分子の合理的設計・合成を行うことを目的としている.主題となる研究項目としては,1. 合成と構造解析,2. 集積構造の解明,3. 分子包接と表面吸着となっている. 平成30年度は,様々な非平面構造を有するナノカーボン分子群の合成を行い,大環状分子を用いた本合成戦略の適用範囲の広さを実証した.具体的な成果としては,1. サドル状構造という異なる非平面構造ナノカーボン分子を合理的に設計・合成できることを実証(Angew. Chem. Int. Ed.誌に報告),2. フープ状構造を有するナノカーボン分子を合成し,フープサイズに応じた構造の柔軟性を有することを明らかにし(J. Org. Chem.誌に報告),3. フープ構造の長さを伸長することで剛直なシリンダー構造を有するナノチューブ(フェナインナノチューブ)を生み出した(Science誌に報告),などが挙げられる.特にフェナインナノチューブは,バンドル構造を形成して集積すること,半導体性を有する興味深い物性を有することが分かった.以上のように,非平面構造を有するナノカーボン分子群を創生することで,構造に由来する性質や機能を明らかにするに至っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画においては,主題となる研究項目として,1. 合成と構造解析,2. 集積構造の解明,3. 分子包接と表面吸着を挙げていたが,いずれの項目においても既に論文として成果を報告するに至っている.現在は,当初の計画にはなかった新しい非平面構造ナノカーボン分子群の設計・合成にも既に着手しており,当初の計画以上に研究が進展している.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,本研究で提案している「大環状分子を基盤とした非平面構造ナノカーボン分子の合理的設計・合成」が,様々な非 平面構造ナノカーボン分子合成に適用可能であることを実証していく.また,研究を通し,巨大湾曲ナノカーボン分子が作り出すπ空間が,エントロピー駆動でゲスト分子を包接する性質を有するということが分かってきた.今後は,分子のみならず,このような特異的なπ空間を積極的に設計していく.このπ空間に機能性ゲスト分子の包接を行うことで,π空間によって摂動がもたらされた特異的な機能・物性の発現を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は,本研究の標的である「湾曲ナノカーボン分子」の合成ルート開拓に注力し,そのバリエーションを拡大することに注力した.小スケールの合成で検討を行なったため,試薬・物品費の購入額が当初予定よりも低く済むこととなったことが次年度使用額が生じた理由である.今後は応用に向けた大量合成や,さらなる巨大ナノカーボン分子の設計・合成を行なっていく予定である.これらを行なっていくためには,大スケールで試薬・物品購入が必要となるため,次年度使用額をそれらに充てる予定である.
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