研究課題/領域番号 |
17K05776
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
林 直人 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 教授 (90281104)
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研究分担者 |
樋口 弘行 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 教授 (00165094) [辞退]
吉野 惇郎 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 助教 (70553353)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 結晶構造制御 / 物性制御 |
研究実績の概要 |
本研究では、3,4,5,6-テトラキス(アルキルフェニル)ベンゾ(TAPB)部位を末端にもつ拡張π共役系化合物からなる分子性結晶において、アルキル基の種類や位置が分子配列に与える影響を系統的に調べてその規則性を明らかにするとともに、有機電界効果トランジスタ(とくにn型のもの)や発光材料に応用して、それらの高機能化を実現することを目的とする。TAPB部位は、導入が簡便であり、また溶解性や安定性の向上につながることから、有機機能性固体研究において、汎用的な分子配列制御部位になることが期待できる。本研究の目的化合物の合成には種々の2,3,4,5-テトラキス(アルキルフェニル)シクロペンタジエノン(Ar4CPD)が必要であるが、Ar4CPDの多くは未知化合物であるため、まずはAr4CPDの合成を行った。Ar4CPDの合成では、アルキル置換ベンズアルデヒドのベンゾイン縮合と、続く酸化によりアルキル置換ベンジルを合成するとともに、アルキル置換ベンジルハライドとトルエンスルホニルメチルイソシアニド(TosMIC)からアルキル置換ジベンジルケトンを合成する。この両者のアルドール反応で、Ar4CPDを合成した。得られたAr4CPDを用いてベンザインとのDiels-Alder反応を試みたが、残念ながら目的物は得られなかった。理由として、ベンザインが効率的に生成していないことが考えられるため、現在は別法によるベンザイン調製を検討中である。こうした研究の最中、Ar4CPDをアリールブロモアセチレンとの反応を経てペンタアリールフェニルエチニル基(Ar5PEn基)に変換すれば、Ar4CPD部位とともに上記の目的に利用可能との着想を得た。実際に、9-位にAr5PEn基が置換されたアントラセンを合成するとともに、X線構造解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、分子配列の精密配置制御が期待できる3,4,5,6-テトラキス(アルキルフェニル)ベンゾ部位(TAPB部位)が縮環したアセン類、フェン類、およびキノン類を合成し、アルキル基の種類(水素、アルキル基、アリール基)や位置によって分子中央のπ共役系部位の結晶内配列がどのように変化するかを調べるとともに、その構造に基づく物性がどのような影響を受けるかを調べる計画であった。これに沿って前年度は、TAPB部位の合成に必要な種々の2,3,4,5-テトラキス(アルキルフェニル)シクロペンタジエノン(Ar4CPD)の合成を行うことを予定していた。これについては、R基がメチル基、エチル基、イソプロピル基、およびtert-ブチル基について合成を検討し、概ね満足すべき結果が得られたとともに、今後さらに多様な化合物を合成するための技術的基盤が確立できたといっていい。一方、続くベンザインとのDiels-Alder反応によるTAPB部位を持つ目的化合物の合成には成功していない。この理由として、ベンザインの生成がうまく進行していないことが考えられる。一方で、Ar4CPDの新しい方向性が見えてきたのは重要な結果といっていい。すなわち、Ar4CPDとアリールブロモアセチレンとのDiels-Alder反応と、続く薗頭カップリングによりペンタアリールフェニルアセチレンを得ることができる。これをハロアレーン類と薗頭カップリングを行えば、ペンタアリールフェニルエチニル基(Ar5PEn基)が導入できる。Ar5PEn基は、TAPB部位と同様にアルキル基の数や種類を系統的な変えることで結晶構造制御や物性制御につながる期待できる。以上のことから前年度は、研究は概ね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
まず、年度越しの課題となっている、2,3,4,5-テトラキス(アルキルフェニル)シクロペンタジエノン(Ar4CPD)とベンザインのDiels-Alder反応について検討する。以前、別の化合物でベンザインを調製した際はうまくDiels-Alder反応が進行したことから、Ar4CPDとの反応に問題はないと考えられる。当該前駆体からベンザインが期待どおりに生成していない可能性が高いため、異なる前駆体を用いたベンザインの調製を試みる。平行して、ベンザイン前駆体以外との反応も検討対象とする。たとえば、フランやチオフェン-S,S-ジオキシドである。合成に成功したのちには、電子吸収・発光スペクトルや酸化還元電位、単結晶X線回折測定といった構造決定ならびに基礎的性質に関する知見を得る。また、有機電界効果トランジスタ(OFET)デバイスを作製してその挙動を調べ、移動度などのパラメーターとX線構造との相関を明らかにする。 前年度から続くTAPB部位を有するアセン類の研究に加え、本年度からはTAPB部位やペンタアリールフェニルエチニル基(Ar5PEn基)をもつフェン類やキノン類へと研究を展開する。合成後は、前項で述べたような構造決定ならびに基礎的性質に関する知見を得るとともに、OFET挙動を検討する。さらにキノン類については、凝集誘起発光(AIE)挙動の発現が期待できるため、それについても検討する。とくにキノンでは、AIE研究で一般的な内部回転阻害(RIR)機構が原理的にあてはまらないため、新しい発現機構や構造-物性相関の確立を目的として研究を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2,3,4,5-テトラキス(アルキルフェニル)シクロペンタジエノン(Ar4CPD)とベンザインのDiels-Alder反応が、当初の予想のとおりには進行しなかった。この理由は、前駆体からのベンザインの生成がうまく進行していないためのと考えられる。この理由を文献や比較実験により検討するために、当初予定よりも試薬やガラス器具購入のための使用額が少なくなったことが、「次年度使用額(B-A)」欄が「0」より大きくなった理由である。また、研究実施時に発見した、計画にはなかった新しい展開[ペンタアリールフェニルエチニル基(Ar5PEn基)の使用]についても検討したため、予定支出額と実際の支出額のあいだに齟齬を生じた。上記問題は、今年度対策を講じ、昨年度購入予定だった試薬類は今年度に繰り越して使用する予定である。
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