研究実績の概要 |
本研究では、3,4,5,6-テトラキス(アルキルフェニル)ベンゾ(TAPB)部位を末端にもつ拡張π共役系化合物からなる分子性結晶において、アルキル基の種類や位置が分子配列に与える影響を系統的に調べてその規則性を明らかにするとともに、有機電界効果トランジスタ(とくにn型のもの)等の電子デバイスに応用して、それらの高機能化を実現することを目的としている。 本研究の目的化合物の合成には種々の2,3,4,5-テトラキス(アルキルフェニル)シクロペンタジエノン(Ar4CPD)が必要であるが、Ar4CPDの多くは未知化合物である。H29年度は、最も典型的な合成法を利用してAr4CPD類の合成を行ったが限定的な結果しか得られなかった。H30年度には、ピナコールカップリングを含む新しい合成経路を検討して、満足すべき結果を得た。また、ルテニウム触媒を用いたアルキンとアリールボロン酸のカップリング反応を用いた直接的な合成法も有効であることがわかった。以上の結果を踏まえてR1年度は様々な化合物について検討したところ、前者の合成法はアセン部位の短い化合物、後者は長い化合物の場合に有効であることを明らかにした。 テトラフェニルナフタレン(TAPB部位が縮環したベンゼン)、テトラフェニルアントラセン(同じくナフタレン)、およびテトラフェニルテトラセン(同じくアントラセン)のX線構造を調べたところ、アセン部位の長さによって、2系統の結晶構造に分類されるとともに、結晶構造に起因して発光スペクトルや発光寿命も変化することがわかった。一方、成膜の困難さから、現在のところトランジスタ挙動は観測されていない。 また、TAPB部位のアルキル基の影響を知るために、アルキル基のかさ高さを段階的に変化させたフルオランテン誘導体を合成し、X線構造を調べたところ、やはり結晶構造のモチーフが2種類に分類されることがわかった。
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