研究実績の概要 |
2021年度は、本課題の最終年度であったためこれまでの成果を基にした発展的研究と研究の総括を中心として研究に取り組んだ。昨年度開発した手法により、2H-シクロヘプタ[b]フラン-2-オン類とシクロヘキサノンから調製したエナミン類との[8 + 2]環化付加反応と続く芳香族化反応によってベンゾ[a]アズレンとその誘導体を合成し、その光学特性、電気化学的特性および反応性について検討した。その結果、これらの誘導体は酸性溶液中で顕著な発光を示し、またその発光波長はアズレン環上の電子的な性質に顕著な影響を受けることが明らかとなった。さらに電気化学的酸化還元条件において、可逆的な色調変化(エレクトロクロミズム)を示すことも明らかとなった。またベンゾ[a]アズレンは3段階でシクロヘプタ[a]アセナフチセノンへ変換可能であり、この分子は酸性条件下で顕著な発光を示すことも明らかにした (Journal of Organic Chemistry, DOI: 10.1021/acs.joc.2c00133)。 2H-シクロヘプタ[b]フラン-2-オン類は縮環アズレン誘導体の合成のための有用な前駆体であるにもかかわらず、その修飾法はほとんど検討されてこなかった。そこで8-ヒドロキシ-2H-シクロヘプタ[b]フラン-2-オンのトリフレート化および鈴木-宮浦カップリングによるアリール化により、多官能基化された誘導体の合成に成功した。これらの誘導体を出発物質とすることでさらに複雑な構造を有する縮環アズレンの合成が可能になるものと考えられる。また8-アリール-2H-シクロヘプタ[b]フラン-2-オンは溶液中および固体状態で顕著な発光を示すことも明らかにした(Chemistry Letters, DOI: 10.1246/cl.220076)。また、分子内環化によるアズレノ[6,5-b]インドールの合成にも成功した(Heterocycles, DOI: 10.3987/COM-21-S(R)5)。
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