研究課題/領域番号 |
17K05785
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
中西 和郎 和歌山大学, 学内共同利用施設等, 名誉教授 (80110807)
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研究分担者 |
林 聡子 和歌山大学, システム工学部, 准教授 (00294306)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | QTAIM二元関数解析法 / 量子化学計算 / ファンデルワールス相互作用 / 水素結合 / p-π相互作用 / X線結晶構造解析 / 拡張超原子価結合 / 超原子価結合 |
研究実績の概要 |
実験化学者が化合物の結合や相互作用に関する物性や測定結果を自身で解析・評価できるようQTAIM-DFA (quantum theory of atoms-in-molecules dual functional analysis)を提案し、相互作用の統一的評価・分類手法を確立した。相互作用を静的・動的両特性から評価し、有機化学や生化学の発展に大いに寄与してきた。動的特性は極めて重要な情報を提供するが若干の摂動構造依存性を解決する必要がある。 そこで本研究では、次の(1)-(3)を目的とする。 (1)座標系に依存しない新規な摂動構造の作成法(CIVと命名)を提案し、QTAIM-DFAをさらに高精度化し、極めて信頼性の高い相互作用の動的特性を提供する。 (2)CIVを適用し多くの化学種に対して相互作用の特性を明らかにする。 (3)QTAIM-DFAを結晶や酵素等の巨大分子の相互作用も解析できる有効な手法として確立する。 平成29年度は、(1)CIVによる摂動構造の作成法を確立した。この成果を論文にまとめ、Int .J. Quantum Chem. に発表した。またこの論文誌のFront coverでも紹介された。(2)CIVを適用して、QTAIM-DFAにより、中性の様々な水素結合に対して相互作用の特性を明らかにした。この成果を論文にまとめ、ChemistryOpenに採択された。またFront coverにも紹介されることになった。計画は順調に進んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
QTAIM-DFAを適用することによって得られる相互作用の動的特性は極めて重要な情報を提供するが若干の摂動構造依存性を含んでいる。このことは相互作用の評価に影響を及ぼしかねない。この欠点を除くためには、摂動構造の作成法を改善する必要がある。内部振動の解析においてCompliant force constantに対応する振動変位座標を用いることによって目的を達成できると、ソフトの開発者、ドイツのブラウンシュバイク工科大学のGrunenberg教授から示唆を頂き、ソフトの使用法を含めて協力研究として、本研究を計画・推進することとなった。さらに分子の量子化された振動にはかなりの相互作用を含んでいるため、この相互作用を理論的に軽減したCompliant force constantsに対応する振動変位座標 (CIV)の活用は分子量の大きな化合物群にも有利である。具体的には、以下の3点について取り組んだ。 (1) 第一は、Grunenberg教授らの開発したCompliant force constantに関するソフトを我々の実験室に設置した計算機上で作動させ、Gaussian programを用いて得た振動解析の結果から、着目する相互作用に関するCompliant force constantに対応する振動変位座標(CIVと略称)を得た。 (2) 基本的(一般的)な相互作用や評価基準の作成に用いる典型的な相互作用群を設定し、(1)の結果を踏まえて、CIVを適用した。CIVの評価結果をPOMおよびNIVによる結果と比較検討し、より信頼性の高い動的特性評価を行った。 (3) (1),(2)で確立したCIV法を様々な相互作用、とりわけvdW, HB, CT-MC, CT-TBP等の弱い相互作用や多重水素結合系等に適用し、その動的特性評価を行った。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、当初の計画の通りである。 (4)QTAIM-DFAを結晶中や酵素等における巨大分子中の着目する相互作用の動的挙動を評価する際、POMによって作成した[1Br---2Br---3Br]-の摂動構造では、1Br---2Brをwao伸長した場合、2Br---3Brはw'ao収縮した(w'/w = -0.357)。よってw'/w = 0.000となる場合は、着目する相互作用のみを変位させることを意味するため、POMにおける部分最適化やNIVやCIVにおける振動解析等の(規模の大きな)計算が不要であると期待される。また、w'/w = 0.000におけるθpの値は、(CIVとは)別の意味で絶対的な評価値と言える。θpの理想値(w'/w = 0)を得る方法は比較的容易に定式化できるものと期待される。しかしながら、その値に対する物理的な意味づけをきちんとする必要がある。その上で、θpの理想値の適合性や有用性を具体的に示すとともに論証を行う。 (5)論証は、結晶中の弱い相互作用に着目し、提案する方法で評価したθpの理想値を、CIV法等を適用して得られた動的評価値を近似解も含めて検討し、θpの理想値の適用範囲とその限界を明らかにする。 (6)(5)で得られた結果に立脚し、酵素等の巨大分子中で着目すべき相互作用の動的特性を、その相互作用の動的特性を損なうことのないモデル等から出発して、trial and error方式も採用しつつ、目的を達成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度に予定していた国際学会参加が代表者の手術入院のため取りやめになった。またこのためQTAIMデータのパソコン入力のため、予定に反して研究協力のための謝金を要した。平成29年度の残金は、研究協力のための謝金として使用する予定である。
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