研究実績の概要 |
軸性キラルビナフチルまたはナフタレン四量体を用いた円偏光発光 (CPL) 色素の開発を行った。昨年度までの研究の継続として (1) ナフタレン四量体を用いた汎用性の高い CPL 色素開発法の確立、(2) キラルペリキサンテノキサンテン (PXX) の開発研究を発展させると共に、新たに (3) 溶媒応答型の円偏光発光色素の開発を行った。(1), (2), (3) の研究内容は独立した学術論文として発表した。
(1) ナフタレン四量体骨格にエキシマー性の発光団としてピレン、ペリレン、アントラセンを 6 つ導入した化合物を合成し、理論計算と機器分析により立体構造と CPL の符号の相関を明らかにした。発光団が右回りにねじれたエキシマーは正の CPL を、左回りにねじれたエキシマーは負の CPL を示すという経験則を見出し、これをエキシマー・キラリティー則と命名した。 (2) 昨年度見出した CPL を示す架橋型 PXX について合成法を見直し、BINOL から 3 工程で合成できる経路を見出した。また理論計算により、架橋構造があると電気および磁気遷移双極子モーメントが直交しなくなり、CPL 発現に繋がっていることが導かれた。 (3) エステル結合を介してピレン環 1 つをビナフチルで挟んだ化合物群を合成した。これらは高濃度でエキシマー性の CPL を示した。ビナフチルがヒドロキシ基を有している化合物では、非極性溶媒中と極性溶媒中で CPL の符号が逆転した。理論計算により、非極性溶媒中ではカルボニル酸素とヒドロキシ水素が分子間水素結合を形成し、極性溶媒中ではその水素結合は形成できずビナフチル同士の立体反発を避ける配座が優先することが示唆された。分子間水素結合の有無によってエキシマーを形成するピレン環のねじれ方向が異なっており、このことが CPL の符号の違いを導いていると考えられる。
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