研究課題
我々は最近,軸不斉を有するキラルなビニリデンo-キノンメチッド(VQM)中間体の新規生成法を開拓するとともに,それを鍵とする不斉分子内環化付加反応の開発に成功した.今回,その知見を基盤として,VQMの生成に基づくアルキンの不斉分子内ヒドロアリール化反応の開発を目的として,基質や反応条件について検討を行った.その結果,求核性アリール基としてインドール基を有する架橋アルキン-インドール系に対して触媒量のシンコニジンあるいはシンコニンを作用させることで,望みの分子内ヒドロアリール化が高エナンチオ選択的に進行して軸不斉を有する新規のベンゾカルバゾール誘導体が高い光学純度かつ高収率で得られることを見出した.また,エナンチオ選択性に及ぼす顕著な基質の置換基効果や溶媒効果も明らかにすることができた.生成物の立体化学的安定性(ラセミ化挙動)についても,速度論解析を行うことで定量的な理解を得た.さらに,単結晶X線構造解析によっていくつかの生成物の絶対配置を決定し,それによって合理的な不斉誘起機構を提示することができた.また,DFT計算を用いることで,反応機構についても有用な知見を得ることができた.触媒的不斉分子内ヒドロアリール化反応は,軸不斉を有するキラルなビアリール化合物の有用な合成法の1つとして近年大きな関心を集めている.しかしながら,その手法は未だ極めて限られており,しかもすべてキラルな遷移金属錯体触媒を基盤としている.これに対して,本研究で開発に成功した反応は,キラルな有機触媒を用いるアルキンの不斉ヒドロアリール化の最初の例である.
2: おおむね順調に進展している
当初の研究計画に従って,求核性アリール基としてインドール基に着目して種々検討を行い,期待通りに高エナンチオ選択的な不斉分子内ヒドロアリール化の開発に成功した.また,反応中間体であるVQMの生成機構と続く分子内環化(ヒドロアリール化)についても,DFT計算によって反応経路を明らかにすることができた.一方,アルキンとインドール基を繋ぐ架橋部位の効果や2-ナフトール以外のフェノール基を有する基質の検討については着手することができなかった.反応の立体選択性やキラル塩基触媒の構造活性相関(不斉誘起機構)も十分に解明することができなかった.
本法の適基質用範囲のさらなる拡大を図る.特に,インドール以外の求核性アリール基,2-ナフトール以外のフェノール基,アルキンとインドール基を繋ぐ多様な架橋部位を有する基質を開拓する.期待通りの結果が得られない基質があれば,その打開に向けて,シンコニジンやシンコニンを凌駕するキラルな酸-塩基協奏触媒の開発を行う.
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Chemistry Letters
巻: 46 ページ: 1214-1216
10.1246/cl.170410
European Journal of Organic Chemistry
巻: なし ページ: 6914-6918
10.1002/ejoc.201701481
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