顕著な電子および光物性を有するπ共役系の一種であるカルバゾール(CBZ)に螺旋不斉を導入すると,特異なキラル物性が発現すると期待される.それゆえに,CBZを含む光学活性なヘテロヘリセンの不斉合成と応用研究は極めて興味深い課題である.我々は前年度までに,キラル塩基触媒を用いるアルキン-インドール系の不斉ヒドロアリール化(Asymmetric Hydroarylation: AHA)を開発するとともに,軸不斉を有するCBZ含有ヘテロビアリール誘導体が高光学純度で得られることを明らかにした.そこで本年度は,そのCBZビアリール体を不斉合成素子として利用し,環化芳香化によってその軸不斉を螺旋不斉に変換して光学活性なCBZヘリセンを不斉合成することを目指した. 種々検討した結果,CBZビアリール体を4ステップでアルキン-CBZ系へと変換する方法を確立することができた.次いで,得られたアルキン-CBZ系にシンコニジンをキラル塩基触媒として作用させることで,AHAに基づく環化芳香化が円滑に進行し,螺旋不斉と軸不斉をあわせもつ光学活性なCBZヘリセンを二種類のジアステレオマーの混合物として得ることに成功した.シリカゲルカラムクロマトグラフィーによってジアステレオマーを分離し,それぞれについてNMR解析およびDFT計算により構造を特定した.また,アルキン-CBZ系のAHAの立体化学を明らかにした. 今後,CBZヘリセンの独特なキラル物性を明らかにするとともに,応用研究へと展開する.また,CBZヘリセンがもつ官能基を活用することによって,従来にないキラルな有機触媒や配位子の創製を検討する予定である.
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