研究課題/領域番号 |
17K05789
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
大賀 恭 大分大学, 理工学部, 教授 (60252508)
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研究分担者 |
重光 保博 長崎大学, 工学研究科, 准教授 (50432969)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 動的溶媒効果 / 溶媒和 / 水素結合 / シミュレーション |
研究実績の概要 |
溶液反応における反応分子の構造変化とそれを取り巻く,すなわち溶媒和している溶媒分子の動的な関わりは,溶媒の静的な性質とともに溶液反応理論の本質に関わる重要な知見であり,これらを実験的な動的溶媒効果の観測と計算化学的な考察により明らかにするのが本研究の目的である。その実験的考察の対象とするメトキシ基,ジメチルアミノ基,メチル基をそれぞれ有するクロメン誘導体の合成し,動的溶媒効果の測定に着手した。メトキシ基とジメチルアミノ基については,プロトン性極性溶媒(2-メチルペンタン-2,4-ジオール)中での動的溶媒効果の現れ方を,無極性溶媒(2,4-ジシクロヘキシル-2-メチルペンタン)中と比較したところ,同じ粘度において,プロトン性極性溶媒中の方がより大きな反応抑制が観測された。非プロトン性極性溶媒(グリセロールトリアセタート)中では,プロトン性極性溶媒中ほどではないが,無極性溶媒中に比べると反応抑制の程度は大きかった。またメチル基については,溶媒極性による動的溶媒効果におよぼす影響はほとんど見られなかった。動的溶媒効果は,溶媒再配列過程が反応律速である環境下で起こり,観測される反応速度は溶媒粘度に依存する。従って溶媒再配列律速条件下では,同じ粘度であれば溶媒の種類によらず観測される反応速度は同じになる。しかし実験結果は,溶媒粘度以外に溶媒再配列を支配している要因があることを示しており,それが極性溶媒と極性置換基の静電相互作用であることを強く示唆する結果であると結論できる。 計算化学的アプローチでは,IRC経路における溶媒和状態を検証するために,まず遷移状態構造と厳密なIRC計算経路の決定を行った。次いで,遷移状態構造とIRC経路に対する溶媒和状態を,マクロな連続媒体近似法(PCM法)で解析を行い,溶媒和状態に対する圧力効果の検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
メトキシ基,ジメチルアミノ基,メチル基をそれぞれ有するクロメン誘導体を合成し,動的溶媒効果の測定を開始した。プロトン性溶媒(2-メチルペンタン-2,4-ジオール)中では,無極性溶媒(2,4-ジシクロヘキシル-2-メチルペンタン)中や非プロトン性溶媒(グリセロールトリアセタート)中に比べて,同じ温度,同じ粘度においても,著しく反応が抑制された,すなわち大きな動的溶媒効果が観測されることを確認した。これらのことから,溶媒粘度の他に,基質分子-溶媒分子間の引力的相互作用が溶媒再配列過程の速度を支配する因子として重要であることが明らかになったと結論できる。 計算化学的アプローチでは,遷移状態構造と厳密なIRC計算経路の決定し,それらに対する溶媒和状態の解析を圧力効果を取り入れて検討した。 実験による検討と計算による検討は,いずれも,当初の計画通りに進んでおり,特に実験では,予想通りの結果が得られている。一部,活性化エネルギー等の速度論的パラメータを求めるために温度効果の測定の途中であることを踏まえて,「おおむね順調」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
現在測定中の各誘導体の動的溶媒効果の測定を継続し,当初の予定通り,電子求引性置換基であるニトロ基とシアノ基に対する極性溶媒の溶媒和効果と反応の動的経路に及ぼす影響について,検討を始めるために基質の合成に着手する。対象とする反応において,電子求引性置換基は,遷移状態を不安定化すると予想され,溶媒和による安定化の効果は,電子求引性置換基よりも強く働くことが期待されるが,そのことが動的溶媒効果にどのように反映されるかを検討する予定である。 計算化学的アプローチでは,遷移状態経路を通らない非IRC経路に対する溶媒和状態の解明に取りかかる。非IRC経路は,溶媒粘度が大きくなることによって発現すると考えられており,この反応経路上では,有効溶媒和殻の反応基質分子の間の余剰反発効果(摩擦)が発生しており,活性化体積(有効溶媒和殻)はIRC経路と大きく異なると予想される。これらの解析は実験的には困難であるので,計算化学的に行う。計算手法はPCM-XP法を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品(文具)の「まとめ購入」による値引き額が剰余金として発生した。30年度に物品費と合算して,消耗品費として使用する予定である。
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