溶液反応における反応分子の構造変化と溶媒和している溶媒分子の動的な相互作用は,溶媒の静的な性質とともに溶液反応理論の本質に関わる重要な知見であり,これらを実験的な動的溶媒効果の観測と計算化学的な考察により明らかにするのが本研究の目的である。特に溶質―溶媒間の静電相互作用の強弱と動的溶媒効果の関係に注目し,極性置換基と極性溶媒および無極性溶媒の組み合わせで,動的溶媒効果の現れ方の比較により,溶質―溶媒間の静電相互作用の程度を評価する手法を確立し,極性置換基であるメトキシ基,ジメチルアミノ基,ニトロ基,シアノ基に対する静電相互作用の評価に適用した。その結果,メトキシ基とジメチルアミノ基については,水素結合性溶媒中で顕著な動的溶媒効果が観測された。一方,ニトロ基とシアノ基では,溶媒極性の違いによる動的溶媒効果の現れ方の違いは観測されなかった。ニトロ基とシアノ基に対する溶媒分子の静電相互作用は,動的溶媒効果に大きな影響を及ぼしていないことを明らかにした。これらの測定の過程で,測定対象としている一連の基質において,電子求引性置換基を有する基質に特異な電子効果,geminal group相互作用が観測されていることをみつけた。しかしながらクロロ置換基については,geminal group相互作用を考慮しても,十分に説明できない反応加速が見られ,これの原因について今後検討する必要があると考えている。 計算化学的アプローチでは,溶質―溶媒相互作用の強い系であるスピロナフトオキサジンを対象にして,分子動力学法を用いて溶質溶質―溶媒相互作用の連動の規模を評価した。この結果は,Journal of Solution Chemistryに投稿し掲載が決定した。
|