研究課題/領域番号 |
17K05790
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
小嵜 正敏 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (10295678)
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研究分担者 |
岡田 惠次 大阪市立大学, 複合先端研究機構, 特別研究員 (50152301)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アザピレン / n型有機半導体 / トリアザピレン / LUMOエネルギー / 縮合多環化合物 / ヘテロ原子 |
研究実績の概要 |
縮合多環芳香族炭化水素への戦略的な窒素原子導入は n 型有機半導体材料を得る効果的手法である。本年度の研究では、C-H 結合の活性化を伴う芳香環どうしのパラジウム触媒カップリング反応を行った後、ワンポットでグリニャール試薬とシアノ基との付加反応および銅触媒を用いた環化反応を行うことによって2,4,10-トリアザピレン誘導体(1)を合成した。銅触媒の当量や添加物などの反応条件を最適化することで生成物の収率向上に成功した。最適化反応条件を応用することで、1,4,10-トリアザピレン誘導体さらに1,3,4,10-テトラアザピレン誘導体の合成にも成功した。 トリアザピレン誘導体1の単結晶を作成し、結晶構造を解明した。その結果、結晶中ではトリアザピレン骨格は平面構造をしており、互いに積層したカラム構造をとることが分かった。合成した化合物がもつトリアザおよびテトラアザピレン骨格は合成例がない新規骨格であり、その性質に興味が持たれる。最初に紫外可視吸収・蛍光スペクトルの測定をジクロロメタン中で行った。その結果、合成したアザピレン類の長波長部の吸収末端は、ピレンと比較すると30-75 nm 長波長シフトしていた。同様の長波長シフトは蛍光スペクトルにおいても観測された。このことは、窒素原子導入によりHOMO-LUMOエネルギー差が小さくなることを示している。また、ジクロロメタン中で電気化学的測定を行った結果、合成したトリアザ、テトラアザレン誘導体はいずれも可逆な還元波を示した。一方、ピレンの還元波は、測定可能な電位範囲では観測されなかった。すなわち、窒素原子導入によってピレン骨格の電子受容性が高くなることが分かった。また、長波長シフトの大きさや第一還元電位は、窒素原子を導入する位置に依存して変化することが分かった。これらの結果は、n 型有機半導体材料の設計に重要な知見を与えるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
炭素-水素結合を活性化する二種類の反応を組み合わせてトリアザピレン誘導体を合成する効率的かつ汎用性の高い合成法を開発した。この合成法を利用することで、市販試薬から二段階で新規トリアザピレン骨格およびテトラアザピレン骨格を構築することに成功した。開発した合成法を応用して各種アザピレン誘導体を合成することで、本手法の有効性、適用限界を明らかにした。これらの研究成果を複数の学会で発表している。アザピレン骨格を構築する新規反応の探索と合成した化合物の結晶構造、光学特性、電気化学的性質の解明は平成29年度の重要な研究課題であり、それを達成できたことは研究が順調に進行していることを示している。 また、平成29年度に取り組む研究課題として、ピリジン環のみから構成される直線型縮合多環芳香族化合物およびその異性体を合成する方法の探索も挙げていた。二つのピリジン環をカルボニル基で架橋した化合物を合成し、臭素基とアミノ基の間の分子内求核置換反応によって重要な合成中間体である縮合多環化合物を合成することに成功した。しかし、目的とする縮合多環芳香族化合物を得るためには、合成中間体のカルボニル基を還元してえられる生成物を酸化して芳香族化することが必要である。現在、効率的にこの反応を進行させる手順を探索している。当初から本研究課題は、平成30年度も継続して取り組むことを計画していた。そのため、この課題に対する取り組みも計画通り順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
アザピレン骨格を構築できる新規合成法を平成30年度以降も引き続き探索し、従来法では合成できない新規アザピレン骨格の構築を目指す。特に、ラジカル反応を中心として反応を探索する予定であり、光化学反応も検討する。X線単結晶構造解析、各種スペクトル測定、熱分析によって合成した化合物の性質、特性を明らかにする。また、平成29年度の研究成果によって得られた新規合成法を応用して、共役系を拡張したアザピレン誘導体やアザピレン二量体を合成し、その結晶構造、光物理特性、電気化学特性を解明する。 前年度に合成したアザピレン類をハロゲン化アルキルと反応させることで窒素原子を4級化して、ピリジニウムカチオン類を合成する。とくに、ビオローゲン(4,4'-ビピリジンの窒素原子をハロゲン化アルキルで4級化したビピリジニウム塩)骨格をもつ分子は、ビオローゲン同様に人工電子伝達剤、酸化還元指示薬としても興味が持たれる。そこで、得られたカチオン種の磁気共鳴スペクトル(NMR, ESR)、酸化還元電位、吸収スペクトル、蛍光スペクトルを測定して、カチオン種が有する特徴的な性質を明らかにする。また、カチオン種の単結晶を作製してX線構造解析を実施する。その結果、分子の固体構造を解明する。 平成29年度から継続してピリジン環のみから構成される直線型縮合多環芳香族化合物およびその異性体を合成する方法の開発に取り組む。合成中間体から最終目的化合物を得るために、カルボニル基の還元反応、酸化的芳香族化反応の条件検討を行う。また、必要なら別ルートでの合成も検討する。 合成した化合物の性質をもとに、良好な n 型半導体特性の期待できる有機材料を選別する。選別した化合物を用いて有機薄膜トランジスタを作製し、その特性評価を実施する。そのため、学内の有機デバイス研究者との共同研究を開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は学内競争資金が配分され、この予算で当初科研費で購入予定をしていた消耗品の一部を購入できた。そのため次年度に一部予算を繰り越した。繰り越した予算は、次年度の物品費(試薬、ガラス器具購入費)として使用する計画をしている。
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