研究課題/領域番号 |
17K05791
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
鈴木 教之 上智大学, 理工学部, 教授 (90241231)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 環状アレン / ジルコニウム / 共役エンイン |
研究実績の概要 |
一般に、環状のアレン化合物は不安定であることが知られており、その単離・構造決定の例はなかった。近年我々は、遷移金属を含む五員環アレン化合物が安定に存在し得ることを見出し、これまでジルコニウム錯体の構造を報告した。しかしこれらの錯体を用いた炭素-炭素結合生成反応への応用は、数例の報告があるのみであり、検討の余地を残している。平成30年度は、従来あまり検討されていない2,5-位に置換基を持つ有機金属環状アレン化合物の求核的付加反応により不飽和カルボン酸アミドを合成する反応について検討した。これまでケトン、ニトリルとの反応からアルコール、ケトンを、またエステル、炭酸エステルとの反応によりケトン、エステル類が得られることを見出した。しかしアミドなど含窒素生成物を与える反応は報告がなかった。そこで、2,4-位に置換基を持つ五員環アレン化合物を出発として種々の含窒素不飽和化合物との反応を検討した結果、イソシアン酸との反応によりアルキン部位をもつカルボン酸アミドが得られることを見いだした。 加えて、自身が有機金属化合物である五員環アレンと金属ヒドリド化合物との反応を検討した。ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウム(ヒドリド)クロリドCp2Zr(H)ClはSchwartz試薬として知られ、Zr-H種が炭素-炭素不飽和結合に速やかに付加することが知られている。そこで本研究で対象としている五員環アレン化合物とSchwartz試薬との反応を試みた。予想に反して、得られた錯体はZr-Hの付加体ではなく、二原子のHが付加したいわゆる水素添加生成物であった。形式的には共役ジエンが低原子価ジルコノセンと反応した化合物が生成したこととなり、二分子のSchwartz試薬からZr(III)のジルコニウム種が二つ生成しないと勘定が合わない。おそらく2核錯体になったと思われるがそれを検出するには至っていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで五員環アレン分子からのアミド化合物の生成は報告されていなかったが、置換基の位置に依存して異なる構造のアミドを生成物として与えることが明らかとなった。2,5-二置換の五員環アレン化合物から誘導される含酸素化合物への変換反応に適用範囲が広がった。アミドを生成する反応を見いだすことができたが、まだ高い収率で生成したとはいえず、反応には検討の余地が残る。興味深いことに、置換基の位置が異なる2,5-二置換五員環アレンの場合、アルキンでなくジエン部位をもつアミドが得られた。前者の反応は、Zr-Csp3結合へC=O基が挿入する従来の反応と同様に進行したと考えられるが、後者では五員環アレン化合物の原料である共役エンインの三重結合部分のみがC=O結合と反応した結果生成した化合物であった。このように置換基の位置によって反応様式が異なる原因は、5位の嵩高いシリル基のためZr-Cへの直接挿入が立体的に妨げられたためと推察される。これらの生成物は有機ジルコニウム中間体を加水分解することにより得られるが、さらなる炭素-炭素結合を伴う増炭反応へ展開することを検討した。すなわち銅塩へのトランスメタル化をへてハロゲン化アリル等への求核置換を試みたところ、低収率ながらアリル化された生成物を与えた。これにより原料となる共役エンインの1位と4位でそれぞれ新たな炭素-炭素結合を生成できたことになる。一方で大きく歪んだアレンの性質を著しく強調する反応性を見いだすには至っておらず、この分子の性質が当初の推測とやや異なることが示されている。 環状アレン化合物のカルベン様性質に関する検討では、Zr-H種との反応において電子移動を伴うジルコニウム酸化数の不均化が観測された。Zr(III)の化学種の生成が示唆されたことは、カルベン型配位の可能性を示すが、今後分光学的な検討によってその証左を示す必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
アミドの生成反応のついては、生成物の置換基依存性についてその原因を調査する。具体的には置換基の嵩高さを種々変えた原料錯体を合成し、イソシアン酸エステルとの反応を試みる。また反応条件として温度が関係するか検討する。さらに7員環のアレン化合物がカルベン配位錯体を与えるか、あるいはトランスメタル化反応が優先するかを明らかにするため、得られた反応中間体から他金属の錯体・塩などとの反応を検討する。トランスメタル化反応が優位な場合は、その結果として生成する有機金属種と各種の求電子剤との反応を試みることとし、新たな炭素-炭素生成反応への展開を試みる。 ジルコニウム-ヒドリド種との反応では、その反応収率を高くする反応条件を探索するとともに副生する3価2核ジルコニウム種の存在を確認する。また生成物としてのジルコノセン-ジエン錯体の結晶かを試み、その構造を明らかにしたい。さらには他の金属ヒドリドとの反応を検討する。例えば水素化リチウムの様な強い還元剤からスズ化合物のような穏やかな反応性を有するものまで、それぞれ環状アレンとどのような反応を示すか明らかにしたい。低原子価ジルコノセンと反応では、環状アレン化合物の二重結合が切断されることが示されたが、後周期遷移金属錯体との反応において曲がったアレンが配位する例はまだ知られておらず、引き続き検討を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の8月から9月にかけて研究室の学内移転があり、実験装置の移転準備のため約2ヶ月近く実質実験を実施できなかった。移転を見越した計画を立てていたが予定以上に準備と再立ち上げに時間を要したため計画より薬品や消耗品の消費が少なくなったため予算計画より若干の余剰が生じた。
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