研究実績の概要 |
環状のアレン化合物は環が小さいほど一般に不安定であり、そのため五員環アレン化合物の単離・構造決定の例はなかった。近年我々は、4族遷移金属を含む五員環アレン化合物が簡便に合成でき安定に存在し得ることを見出し、その分子構造を報告した。これらのユニークな構造をもつ錯体を用いた炭素-炭素結合生成反応への応用は、新しい有機合成化学の様式として期待されるが、報告例が少ない。本研究において前年度まで従来検討例が少なかった2,5-位に置換基を持つ有機金属五員環アレン化合物の求核的付加反応による不飽和カルボン酸アミドの合成反応について検討した。これまでイソシアン酸エステル、炭酸エステルとの反応からアルキン部位を持つアミド、エステル類が得られることを見出した。しかしアミドを与える反応の主生成物と副生成物の異性体の関係や反応機構については明らかになっていなかった。 令和1年度は種々の基質について異なる反応条件で検討を行い、また得られた生成物の完全な構造決定を実施することにより、反応中間体を決めることに成功した。即ち、炭酸エステルとの反応とは異なり、イソシアン酸エステルとの反応ではアルキン部位で炭素-炭素結合生成が起きることを明らかにした。その理由は嵩高いケイ素置換基に依ると考えられる。同様の反応機構がアルキンとの反応において高橋らによって以前報告されたが、五員環アレン化合物から出発した例は初めてである。さらに銅塩を用いたアリル化反応においても同様の経路を経由するが得られる生成物において不飽和性が異なりアレン化合物を与えることがわかった。 加えて、五員環アレン化合物のカルベン様性質を検討するため、金属ヒドリド化合物との反応の検討を継続した。Cp2Zr(H)Clとの反応において、予想に反して水素添加生成物が得られる機構について検討したところ、Zr(III)のラジカル種の関与が示唆された。
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