研究課題/領域番号 |
17K05792
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
岩岡 道夫 東海大学, 理学部, 教授 (30221097)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | セレン / インスリン / スレオニン / 不飽和カルボン酸 / 不飽和ラクトン / 光学分割 / グルタチオン |
研究実績の概要 |
本研究は、セレノシステイン(Sec)の有機触媒としての機能開拓を行うことを目的とする。初年度(平成29年度)は、(1)新規αメチルセレノシステイン誘導体の合成、(2)ペプチド合成に有用なセレノシステイン誘導体の大量合成法の開発、(3)セレノペプチドの分子設計と合成、(4)セレノグルタチオン(GSeSeG)の合成と酸化還元反応性に関する基礎データの収集、の4つのミッションを計画し、研究を進めた。その結果、(1)新規化合物として数種類のαメチルセレノシステイン誘導体の合成に成功し、これらを触媒として用いる不飽和カルボン酸の触媒的不斉環化反応を実際に行ってみた。しかし、得られた不飽和ラクトン生成物の不斉収率は約20%e.e.と低いものであった。そこで、α位ではなくβ位にメチル基をもつセレノスレオニン誘導体の合成に新たに着手し、新規化合物を合成することができた。(2)目的とするセレノシステイン誘導体をグラムスケールで再現性良く合成する手法を確立することができた。(3)セレン含有酵素であるグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)の活性中心の構造をモデル化したのセレノペプチドを合成し、活性測定を行った。しかし、有効な抗酸化触媒活性を得ることはできなかった。そこで、鎖状ではなく環状のセレノペプチドを分子設計し、実際に合成を行った。(4)セレノグルタチオン(GSeSeG)の以前の合成ルートを再検討し、より効率的なセレノグルタチオンの合成法を見出すことができた。合成したセレノグルタチオンを用いて、過酸化水素や各種チオールとの反応を行い、GSeSeGから生成した活性種の同定をNMRや質量分析によって行った。その結果、セレノグルタチオンの酸化還元反応の特性を明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画した4つのミッションのいずれにおいても、当初の計画通りか、あるいは計画以上の研究成果を得ることができた。ミッション(1)では、新規化合物であるβメチルセレノシステイン(セレノスレオニン)誘導体の合成に成功した。α位ではなくβ位にメチル基があることで、セレン原子の不斉認識能が高まることが予想される。ミッション(3)では、当初の計画よりも1年早く、環状セレノペプチドを合成することができた。GPxの活性中心に存在するアミノ酸残基を鎖上ではなく環内に固定することで、アミノ酸側鎖同士の相互作用が強まり、活性も高くなることが期待できる。さらに、セレノペプチドの分子設計の一環として、糖尿病の治療薬であるインスリンのA鎖とB鎖に含まれるシステインをセレノシステインに置換したインスリンA鎖とインスリンB鎖を合成することにも成功した。これらを混合することでセレノシステイン置換インスリンアナローグ(セレノインスリン)の合成を検討したところ、収率よく目的物を得ることができた。セレノインスリンはインスリン分解酵素に対する耐性が高いことが明らかとなり、持効型インスリン製剤として応用の可能性を示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き各種セレノシステイン誘導体の合成とそれを用いたセレノペプチドの分子設計と合成を進めていく計画である。また、新規なインスリンアナローグとしてセレノインスリンを合成することに成功したので、この方法をさらに発展させることで、ヒトインスリンの化学合成にも挑戦する。ミッション(1)では、合成に成功したセレノスレオニンを用いた不斉触媒反応を行い、セレノシステイン誘導体の不斉触媒としての可能性を明らかにする計画である。ミッション(2)では、合成したセレノシステイン誘導体を用いて様々な金属錯体を合成し、その構造解析を行うとともに、錯体の不斉触媒としての機能についても検討する。ミッション(3)では、合成した環状セレノペプチドのGPx触媒活性の評価を行うことで、GPxの作用機序について新たなメカニズムの提案ができるものと期待している。さらに、別のセレン含有酵素であるチオレドキシンレダクターゼ(TrxR)の活性中心をモデル化したセレノペプチドの分子設計と合成に着手し、その機能の評価を行う計画である。ミッション(4)では、セレノグルタチオンの生理機能を評価するために、共同研究によって、培養細胞や小動物を用いた評価実験を行う計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、化学合成を行うのに必要な低温反応装置(約70万円)を購入する計画であったが、別の反応装置を用いて代用できることがわかったため、購入を取りやめた。使用しなかった予算分は、研究成果をまとめた論文(オープンアクセス)の掲載料や研究動向の調査及び研究成果を公表するための旅費、専門技術や知識の提供に対する謝金などに充てる計画である。その他の項目については、当初の計画通りに使用する予定である。
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