研究課題/領域番号 |
17K05796
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研究機関 | 福井工業大学 |
研究代表者 |
蔵田 浩之 福井工業大学, 環境情報学部, 教授 (40263199)
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研究分担者 |
原 道寛 福井工業大学, 環境情報学部, 教授 (80362630)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 発光性有機固体 / 凝集誘起発光 / シアノスチルベン / サリチリデンアニリン / メカノクロミズム / ベイポクロミズム |
研究実績の概要 |
今年度は,シアノスチルベン系誘導体の研究を中心に行った。なかでも,ナフタレンの1,4-位にシアノスチルベン構造を有するビス(シアノスチルベン)誘導体に関して興味深い結果が得られた。ナフタレン-1,4-ジカルバルデヒドにフェニルアセトニトリルを塩基触媒下脱水縮合して得られたビス(シアノスチルベン)誘導体は,溶液中でも弱く発光するが,溶媒の含水量を増やすことで発光強度が増大し,いわゆる凝集誘起発光(AIE)を示す。したがって,この化合物は結晶状態において発光性を示すが,結晶化溶媒の違いによって異なる固体発光特性を示し,ジクロロメタン-ヘキサンから結晶化したものは黄色に発光し,酢酸エチル-エタノールから結晶化したものは緑色に発光することがわかった。それぞれの結晶について単結晶を作成し,X線結晶構造解析を行ったところ,黄色に発光する結晶にはジクロロメタン分子が包接され,緑色に発光する結晶には溶媒分子の包接は見られないことがわかった。発光色の違いは結晶中における分子の配列様式の違いに起因していると推測される。 また,黄色発光結晶を加熱すると緑色発光結晶に変化し,緑色発光結晶にジクロロメタン蒸気を接触させると黄色発光結晶へと変化した。さらに黄色発光結晶をスパチュラ等ですりつぶすことによっても緑色結晶へと変化させることができた。これらの変化は結晶中のジクロロメタン分子の脱着に基づくものと考えられる。 一方,ベンゾ縮環サリチリデンアニリン系誘導体については,2-フェニルイミノメチルナフタレン-1-オール誘導体の合成に着手した。母体化合物およびメトキシ置換体,ニトロ置換体の3種の誘導体を合成することができ,X線結晶構造解析によって結晶構造を明らかにした。いずれも平面性の高い分子構造を持ち,いわゆるケト型構造をとっていることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
化合物の合成面においては特段困難な状況には遭遇しておらず,おおむね順調に行えている。また,研究開始当初から懸念されていた発光量子収率の測定に関しても,測定できる環境が整いつつある。結晶構造の解明に関しては,単結晶の育成の成否に依存するため予断を許さないが,少なくともこれまでのところは良好な結果が得られていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
シアノスチルベン系誘導体については,今年度得たナフタレン-1,4-ビス(スチルベン)誘導体に関して類縁体を合成し,固体発光性に対してナフタレン骨格が有する可能性を探る。また,ピレンなど,他の縮環芳香族系化合物を有する化合物を合成し,その固体発光性を明らかにする。 平成30年度はベンゾ縮環サリチリデンアニリン系誘導体の研究に重心を移したいと考えている。これまでに得られた知見から,ベンゾ縮環サリチリデンアニリン系においては,分子の平面性が高いと固体発光強度が弱くなる傾向がみられる。これは逆に言えば,分子の平面性をコントロールすることにより,固体発光特性をチューニングできる可能性を示唆しており,「分子の平面性と固体発光性」という観点から研究を遂行していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度の当初予算よりも物品費が少額で済んだため,次年度使用額が生じた。次年度において物品費として使用する予定である。
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