研究実績の概要 |
近年,固体状態で発光する有機化合物が注目を集めているが,発光効率の向上,発光波長の多様化,デバイスへの適応性など,発光性有機固体に求められる課題は多い。それらの解決のためには,有機化合物の固体発光に関する基礎的知見の蓄積が不可欠である。本研究は,発光性分子の基本骨格に芳香環を縮環させた縮環π電子系を系統的に合成し,それらの結晶構造と固体発光性を明らかにすることで,発光性有機固体における縮環π電子系の効果を明らかにし,新規発光性分子の開発に寄与することを目的する。 基本骨格としてシアノスチルベンとサリチリデンアニリンの2種を選び,それぞれに対して約30種のベンゾ縮環体を合成した。シアノスチルベン誘導体の中でも,ナフタレンの1,4-位にシアノスチルベン構造を有する誘導体(1,4-ナフタレン架橋体)において,外部環境に応じて3色の固体発光色の変化が観測される結果を得た。再結晶溶媒の違いによって黄色発光と黄緑色発光の2種の結晶が得られ,さらに黄色発光結晶を加熱すると黄緑色発光結晶に変化し,さらに加熱を続けると青色発光が観測された。これらの変化は,包接された溶媒分子の脱着並びに結晶中での分子のコンフォメーション変化によって説明可能であることがTGおよびDSG測定並びにPXRD測定,単結晶X線結晶構造解析によって明らかにされた。各発光色結晶の分子構造はナフタレン環に対するシアノスチルベン部の配向がそれぞれ異なっており,ベンゾ縮環による分子の非平面化がこの変化をもたらしている。固体発光量子収率も高いもので80%を超え,外部刺激に応答する発光デバイスへの応用に期待が持たれる。 一方のサリチリデンアニリン誘導体に関しては,ベンゾ縮環の位置によって固体発光性が全く異なり,その要因には分子内のケト-エノール互変異性が起因することを示唆する結果を得ており,今後さらに詳細を調べていく予定である。
|