研究課題/領域番号 |
17K05800
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
志賀 拓也 筑波大学, 数理物質系, 助教 (00375411)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 双安定性 / 磁性 / プロトン / 電子 / 誘電性 / 分子エレクトロニクス |
研究実績の概要 |
複数の安定状態を持つ双安定性金属錯体は、配位子の修飾や分子集合構造の制御によって、多彩な電子状態を精密に設計することができる。双安定性化合物としては、スピンクロスオーバー錯体、電荷移動共役スピン転移錯体、および原子価互変異性化合物などが例として挙げられる。これらの双安定性化合物は、熱・光・圧力などの外場に応答し、複数の安定な電子状態間を可逆に変換できることから、分子をもちいたナノサイズの新しいエレクトロニクス材料としての応用が期待されている。このような分子は記録材料や表示素子などの機能性分子としての応用が期待されているが、電場に対する応答性の検討や誘電性の観点から物性探索した研究はほとんどなく、精密な分子設計によって新しい物性変換を行うことは、分子性機能材料としての可能性を広げると考えられる。本研究では、プロトン応答性を双安定性金属錯体に導入し、電場による磁性変換や磁場による誘電性の制御を分子レベルでの精密設計によって達成することを目的として研究を進めた。具体的には水素結合可能な部位を導入した双安定性分子を合成し、効果的な分子間相互作用をもたせてネットワーク構造を構築し、各種物性と外場応答性を調べ、プロトンと電子が連動した新しい物性変換機構を探索することを目標として研究を進めた。熱や光による物性変換は数多く報告されているが、プロトンに起因した双安定性の発現や電場応答性の研究は皆無であり、本研究によって新たな分子素子開発への糸口が見つかると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでに異なるpKaの解離性プロトンを2つもつ非対称な平面性3座配位子をもちいて室温付近で急峻なスピンクロスオーバー現象をしめす鉄(II)単核錯体を合成し、単結晶X線構造解析、磁気測定およびメスバウアースペクトル測定などから電子状態を明らかにした。さらにこの錯体の合成時に適切な塩基を加えることで2プロトン脱離した中性の鉄(II)単核錯体を単離し、各種物性測定を行ったところ、S=0の低スピン状態が安定化されていることが明らかとなった。また、合成条件を工夫することで、プロトン化状態の異なる3種の鉄(III)単核錯体を合成し、S=1/2およびS=5/2のスピン状態をとり得ることを明らかにした。これらの結果はプロトン化状態の制御によって、鉄イオンの電子状態を変換でき、電子移動にも有用であることを示唆している。溶液および固体状態での酸・塩基応答性についても調べ、顕著な色調・磁性の変化が起こることを見出した。この単純な単核錯体はプロトン化状態と酸化状態が密接に関連しており、配位子場を反映したスピン状態を持つことから、単核錯体ユニットをもとにした様々な応答性材料やプロトン-電子連動材料の開発が期待されるため、現在プロトンドナー/アクセプターとの複合化や金属イオンの変換などを進めている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究において、双安定性を示しプロトン化状態の異なる5種の鉄錯体の単離に成功し、構造・磁性・電子状態を明らかにした。今後は配位子の修飾を行い、分子間の相互作用の制御を行う。また、分子間を効果的に連結するために、類似したpKaをもつプロトンドナー/アクセプターを新規合成し、鉄錯体と混合して結晶化することでネットワーク化された集積体を構築する。有効な水素結合ネットワークが形成されていた場合は、温度可変誘電率の測定を行い、電場応答性があるかどうか調べる。また、電場印加状態で温度依存磁化率測定を行い、電場印加による鉄イオンのスピン状態の変化があるかどうか確かめる。ネットワーク構造が電場印加に対して有効ではない場合は、キラルな対イオンやキラルな溶媒を導入し、分子配列が異方的になるように制御する。電場応答性物性変換が観測された場合は、低温での光励起による誘電率変化を調べ、逆物性変換能の発現に関しても検討する。これまでの研究で、固体状態での酸塩基応答性があることが分かったため、開発した鉄錯体をユニットとするようなMOFの構築を行い、より堅固な骨格をもつ集積型錯体においてプロトンと電子が絡む物性を発現し、磁場・電場によるプロトン・電子の出し入れが可能な材料の構築を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
標的としていた化合物が比較的早い段階で得られ、合成条件を変えることで多彩な電子状態を持つ化合物が得られることが分かったため、詳細な物性測定を予定よりも早く行うことになった。その結果、使用計画で計上していた物品費・旅費を使わなかったため、次年度に使用することにした。次年度は配位子の修飾と錯体合成を進めるため、試薬購入に物品費を使い、これまでの成果報告と共同研究および論文投稿のために旅費・その他の経費を使用する。
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