研究課題/領域番号 |
17K05801
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
浅野 素子 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (80201888)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 励起構造 / 光エネルギー / 電荷移動励起状態 / ジホスフィン配位子 / 温度変化 / 緩和過程 |
研究実績の概要 |
Ⅰ価の銅錯体は安価で豊富な光エネルギー変換素子(人工光合成やOLED)として、最近年急激に注目を集めている。Cu(I) 錯体は古くから知られていたが、やや不安定で励起寿命が短い傾向にあった。近年、リンで結合するホスフィン配位子を用いることによって、安定かつ強発光の錯体を形成することがわかってきた。しかし、応用を急ぐあまり、その励起構造などの基礎的知見があまりなく、錯体設計は試行錯誤によっているのが現状である。そこで、遅延けい光とりん光が競争するCu(I)錯体の発光のメカニズムを明らかにするため、温度変化実験に基づき、励起構造の解明を行うとともに、その新しい解析法を開拓した。励起構造の解析には、これまで極低温から高温までの温度変化実験のデータが必要であったが、本課題研究では発光収量と寿命の比を巧みに用いて室温付近の溶液中のデータのみで解明できる方法を提案した。この手法を適用して、5種のフェナントロリンとジホスフィンを配位子として1つずつ持つヘテロレプティックなCu(I)錯体の励起構造を解明すると共に、特に励起三重項状態からの緩和速度をはじめとする緩和過程を明らかにした。系統的な錯体を用いた研究により、特にジホスフィン配位子の役割について、配位子間電荷移動遷移の寄与が励起状態の安定性の鍵となっていることが示唆された。一方、低温において電荷移動励起三重項状態の時間分解ESRスペクトルを観測した。現在解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Cu(I)錯体の励起構造を解析するために、3準位系の緩和ダイナミクスについての厳密解を求め、そこから寿命と発光収量の比の温度変化に対する近似解を導いた。求めた関係式には無輻射遷移など、大きく温度変化する定数は含まれていないため、発光収量と発光寿命の温度変化実験の結果から励起構造および輻射遷移速度を、溶液中のデータでも求めることができる。新しい簡便な解析の方法として、広く適用できる有用なものであると考えられる。実際にフェナントロリンとジホスフィンを1つずつ配位子としてもつヘテロレプティックなCu(I)錯体5種における発光スペクトルと発光寿命の温度変化実験を溶液中 200 K - 300 K の温度範囲で行った。これらの実験結果に新しい解析の手法を適用した。その結果、一重項―三重項エネルギーギャップおよび三重項からの輻射遷移速度を求めることができた。系統的な錯体を用いた解析結果から、三重項からの輻射遷移速度に大きなジホスフィン依存性があることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度の結果により、三重項からの輻射遷移速度が、Cu(I)錯体の発光特性を大きく支配していること、また大きなジホスフィン配位子依存性をもつことがわかった。そこで、ジホスフィン配位子を変えた錯体を用いた実験を行い、ジホスフィン配位子の役割についてより詳細に検討を行う。一方、その検討過程において、H29年度に提案した解析手法がより広く適用できることを確認し、より一般性のある手法として確立させる。 また、電荷移動励起三重項状態の時間分解ESRスペクトルにおいてはそのシミュレーションプログラムを作成し、励起状態における電子分布および一重項―三重項の緩和の選択則を明らかにする。 これらを基にさらにCu(I)錯体における励起状態の電子・スピン構造の解明をすすめ、発光性Cu(I)錯体の光機能の創出にどのような設計が重要となるか、指針を得られるように検討を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
測定系に組み込む予定の装置が年度の途中で故障してしまったため、修理が完了し使用可能であることを確認してから、組み合わせる物品を購入するため。測定システム全体を確認し、必要物品を購入する。なお温度変化実験の解析が予想以上に進んだため、計画としての全体的な遅れはない。
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