研究実績の概要 |
すでにシリル(シリレン)タングステン錯体Cp*W(CO)2(=SiMes2)SiMe3 (1: Cp* = η5-C5Me5, Mes = 1,3,5-Me3C6H2)とピリジン-N-オキシド(PNO)を4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)共存下で反応させることで,DMAPが配位して安定化されたシリル(シラノン)錯体Cp*W(CO)2{O=SiMes2(DMAP)}SiMe3 (2)が得られることを明らかにしている。錯体2は初めてのシラノン遷移金属錯体であり,その反応性に興味が持たれるが,PNOおよびROH(R = H, Me)以外ほとんど反応しない。そこで,より反応性の高いシラノン錯体の合成を目指して,DMAPよりも配位力の弱いピリジン(py)が配位したシラノン錯体の合成を行った。 当初,ベンゼンあるいはヘキサン中,過剰のピリジン共存下で錯体1とPNOとの反応を検討したが,生成した錯体の分解が速く単離には至らなかった。そこで,ピリジンを溶媒として錯体1とPNOとの反応を行い,目的とした錯体Cp*W(CO)2{O=SiMes2(py)}SiMe3 (3)の合成に成功した。錯体3は,茶色結晶として収率35 %で単離され,NMR, IR, 元素分析およびX線結晶構造解析により同定した。 錯体3の結晶構造は,DMAPが配位したシラノン錯体2の構造とほぼ同一であった。ただし,錯体3のシラノンのケイ素原子とピリジンの窒素原子との結合距離は,DMAP配位錯体2の対応する距離よりも有意に長かった。この事実は,ピリジンの配位がDMAPの配位よりも弱いことを示唆している。実際,C6D6中で錯体3に1当量のDMAPを加えると,錯体3は完全に消失して錯体2に変換された。 現在,錯体3の反応性を検討しているが,期待通り,錯体2よりも反応性が高いことが明らかになりつつある。
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