研究実績の概要 |
シラノン錯体の硫黄類縁体であるシランチオン錯体として、初めての陽イオン性シランチオン錯体の合成に成功した。シリルスルファニル錯体Cp*(CO)3WSSiR2H ( Cp* = η5-C5Me5, R = Me (1), Ph (2)))とPh3CTFPB (TFPB- = B{3,5-(CF3)2C6H3}4-)をDMAP (DMAP = 4-Me2NC5H4N)共存下で反応させると,ケイ素上のHがPh3C+により引き抜かれ,ケイ素にDMAPが配位した陽イオン性シランチオン錯体[Cp*(CO)3W{S=SiR2.DMAP}]TFPB (R= Me (3), Ph (4))が得られた。錯体3および4はそれぞれ収率80および75%で単離できた。錯体3は単結晶X線結晶構造解析に成功し,短いSi=S結合,長いW-S結合を持つことなどの特徴が明らかになった。錯体4にMeOHを加えると,速やかに反応してメトキシシリルスルファニル錯体Cp*(CO)3WSSiPh2OMeおよび[H.DMAP]TFPBが得られた。遊離のシランチオンR2Si=Sとメタノールとの反応では,一般にメトキシシランチオールMeOR2SiSHが生成するが,錯体4の反応では対応するシランチオールは生成しない。 なお,陽イオン性シランチオン錯体の原料であるシリルスルファニル錯体Cp*(CO)3WSSiR2H (R = Me (1), Ph (2))は,Li[Cp*(CO)3WS]とR2SiHClとの反応により,中程度の収率で合成した。錯体1は単結晶X線結晶構造解析に成功し,長いW-S結合,単結合に相当するSi-S結合を持つことを明らかにしている。上記で述べたシランチオン錯体ではSi-S結合がかなり短縮しており,二重結合性を有することがデータから明らかになった。
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