研究課題/領域番号 |
17K05804
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
神戸 徹也 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (00733495)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 超原子 / アルミニウム / デンドリマー |
研究実績の概要 |
申請者はこれまでに、典型金属化合物のデンドリマーへの内層からの段階的な精密集積を達成してきた。本研究ではフェニルアゾメチン骨格の第4世代デンドリマーへのアルミニウム塩の精密集積を新たに達成した。この集積を利用することで、13原子のアルミニウムからなるアルミニウム超原子の液相での合成に成功した。 超原子は原子に類似した電子軌道を有するクラスターであり、数個から数十個の高対称のクラスターでその特性が発現できる。この超原子は構成元素の価電子数を制御することで様々な元素特性を模倣できるとして注目されてきた。これまでに、理論計算や高真空下での気相構築の例はあったが、量合成が可能な液相での合成は配位子保護された貴金属の魔法数クラスターを除き殆どなかった。そこで本研究では、鋳型デンドリマーにより構成原子数を規定することで原子数を変化させたクラスター群の液相合成を行なった。これにより超原子の液相合成に対する新たな手法を開拓した。 13原子の集積にはピリジン部位をコアに有するデンドリマー(pyTPMG4)を用いた。4分岐の高対称デンドリマーでは規定できる原子数が4、12、28、60である。そこで、金属配位部位を1つ追加した(pyTPMG4)を利用することで13原子の精密集積への対応も可能にした。クラスターへの還元反応はナトリウム/ベンゾフェノンラジカルを用いて行ない、生成はSTEMによる観察、マススペクトル、XPSを用いて確認した。これにより目的とするアルミニウム13クラスターが合成できていること、そのクラスターが他の構成原子数のクラスターと比較して安定であることを実験的に示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では超原子の液相での合成とその物性の解明が目的である。その目的に対して、まず、様々な典型金属塩の集積を行い、その中で超原子の構成原子となるアルミニウムの精密集積に成功した。このアルミニウム塩の集積を用いることで、超原子の最も有名な例であるAl13クラスターの液相での合成に成功した。これを用いて13原子のアルミニウムが特異的な安定性を示すことも実験的に示すことが出来た。これら成果は論文として報告している。 さらに液相合成の特徴を活かして、電気化学によるクラスターの物性測定を行なっている。これは、これまでの気相合成法で得られるクラスターでは測定できないものであり、本研究の液相合成で可能になった。この電気化学による酸化還元電位測定はクラスターの電子状態の解明に利用できる。 本年度で達成したアルミニウム超原子の液相合成の成果は、デンドリマーを鋳型とした本手法が超原子合成に有用であることを実証したものであり、この知見を利用して、今後様々な超原子の液相合成に適応できる。これらのことから当初の計画以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度で達成したアルミニウム超原子の液相合成を達成した。今後の研究展開として、 1) 超原子バリエーションの開拓 2) 超原子物性の評価 を目的とする。 1) バリエーションの開拓については、アルミニウムと同族のガリウムやホウ素に展開する。これらは超原子物性を決定する価電子の数が同じであり、アルミニウムに用いた手法が直接利用できる。また、これら同じ13族元素によって構成される超原子の物性解明は、超原子群が示すと理論提唱されている新たな周期律の、実験的な解明に貢献できると考えられる。 2) 超原子物性の評価 としては、個数を規定して合成するクラスター群に対する系統的な安定性、磁性、発光特性の評価を軸に検討し、構造と電子物性との相関関係を捉えることを目的としている。現状では安定性の低いクラスターが基礎物性測定に際して分解する問題がある。この問題に対して、直鎖ポリマーによるデンドリマーを介したクラスター保護に取り組んでおり、酸化に対する安定性が向上することを予備的に実証している。 これらを達成していくことで、超原子の実験的な研究を推進する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究で合成した金属クラスターの分析には高輝度のX線による装置が必要であるが、その装置の予約が混雑しており測定の一部を次年度に行なうこととした。そのため、装置利用に必要となる金額を翌年度に繰り越した。繰り越した金額は装置の使用費として利用する予定である。
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