研究課題/領域番号 |
17K05805
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
山口 佳隆 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (80313477)
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研究分担者 |
橋本 徹 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 助教 (90710898)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 金属錯体触媒 / ニッケル錯体 / 3座ピンサー型錯体 / モノアニオン性3座配位子 / 炭素-酸素結合切断 / 炭素-炭素結合生成反応 / ホウ素化反応 / 鉄塩錯体 |
研究実績の概要 |
ニッケル錯体を用いた芳香族塩化物およびフッ化物と芳香族Grignard反応剤とのクロスカップリング反応に関する研究成果は論文として報告した。 昨年度,ニッケル錯体を触媒として用いたアリルエーテル類(求電子試薬)と芳香族Grignard反応剤との反応により,アリルエーテル化合物の炭素-酸素結合の開裂を伴うクロスカップリング反応が進行し,対応するアリルベンゼン誘導体が生成することを見出した。本年度は,配位子を系統的に修飾した4種類のニッケル錯体を用いて反応を精査したところ,配位原子として酸素-窒素-リンからなる3座配位子を有するニッケル錯体が効果的な触媒として機能することを明らかにした。立体的にかさ高い置換基を有するGrignard反応剤を用いても良好な収率で生成物が得られた。枝分かれ構造を有するアリルエーテル化合物を用いた反応や経時変化の追跡実験などから,π-アリルニッケル錯体の生成を経由する反応であることが示唆された。本研究成果は投稿論文としてまとめているところである。 ニッケル錯体を触媒として用いたスチレン類のホウ素化反応を検討した。その結果,ホウ素が付加したモノボリル化体が生成することがわかった。現在,反応条件の最適化ならびに基質適応範囲の検討を行っている。 昨年度,オニウムを対カチオンに有するテトラハロゲノ鉄塩錯体が第2級臭化アルキルと芳香族Grignard反応剤のクロスカップリング反応において良好な触媒として機能することを見出した。今年度は本触媒反応を精査し得られた結果をまとめて論文として投稿した(現在,査読審査中)。さらに,種々のオニウム塩を検討したところ,ホスホニウムを対カチオンにもつ鉄塩錯体が第2級ハロゲン化アルキルに対して良好に機能することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
第一列後周期遷移金属元素を用いた3座ピンサー型錯体の合成法を確立し,得られた錯体の触媒能に関する研究成果は,本研究課題を遂行するために必要不可欠な知見となる。本年度の検討では,10族ニッケル錯体を用いた触媒反応に関する検討を行い,アリルエーテル類の炭素-酸素結合の切断を伴う炭素-炭素結合生成反応について精査した。現在,投稿論文としてまとめているところである。また,触媒反応におけるニッケル錯体の有用性を明らかにする目的で,スチレン類のホウ素化反応を新たに検討した。その結果,ジボロン化合物を用いることで目的とするホウ素化生成物が良好な収率で得られることがわかった。さらに,鉄塩錯体を用いた触媒反応に関する検討過程で,対カチオンとしてホスホニウムを用いることで基質適応範囲の拡張が可能となった。以上の結果より,第一列後周期遷移金属錯体がかかわる本研究課題についてはおおむね良好に推進できているものと考えている。 複核錯体および多点反応場錯体の研究に必要なNHCの取扱法の開発に関しては,昨年度までの検討でその方法論を確立することができた。しかし,3座ピンサー型配位子骨格にNHC部位を組込んだハイブリッド型配位子の合成研究に関しては,十分な検討ができていない状況であり,早急な対応が必要であると考えている。 以上のことから,本研究課題に関しては,全般的にはおおむね良好に推進できているものと考えているが,3座ピンサー型配位子を用いたハイブリッド型配位子に関する研究が遅れている点で,やや遅れているという区分に相当すると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
モノアニオン性3座ピンサー型配位子を有するニッケル錯体の研究を通じて,本配位子ならびにそのニッケル錯体の有用性を示すことができつつあると考えているが,触媒反応における活性種等に関する詳細な情報は得られていない。これらの点を明らかにするために,量論反応や反応中間体の単離・同定などを検討し,本錯体に関するより詳細な情報の収集を行う。今後は,以下の点に注目して研究を行う。①不活性結合の活性化(切断)を伴う炭素-炭素結合生成反応の開発,②不飽和化合物に関するホウ素化合物やケイ素化合物の付加反応の検討,そして③3座ピンサー型配位子骨格の修飾とその金属錯体の合成を行う。 項目①に関しては,ニッケル錯体を用いた炭素-酸素結合だけでなく炭素-窒素結合の活性化や水素分子の活性化についても検討を行う。項目②については,ホウ素化合物やケイ素化合物の付加反応を検討するとともに,水素分子を用いた還元反応への展開を検討する。さらに,項目③に関しては,サリチルアルデヒド類を基盤とするモノアニオン性3座配位子とその金属錯体の合成を行い,これまでに得られたアセチルアセトン骨格を利用したピンサー型錯体との比較検討を行う予定である。 本研究で提案した3座ピンサー型配位子骨格にNHC部位を導入したハイブリッド型配位子の合成にはほとんど着手できていない。そこで,3座配位子の一部,すなわち3座目の配位部位としてNHCを有する配位子の合成を行う。本配位子を用いたピンサー型の単核錯体の合成を検討し,3座目のNHC配位子が触媒反応に与える影響を検討する。さらに,本配位子に期待される多彩な配位様式に基づく金属錯体合成に関しても検討を行う予定である。
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