研究課題/領域番号 |
17K05812
|
研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
中島 隆行 奈良女子大学, 自然科学系, 准教授 (80322676)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 複核錯体 / 多核錯体 / 多座配位子 |
研究実績の概要 |
触媒化学における次世代材料の開発を行う上で重要な課題は,入手が容易で枯渇性資源に依存しない出発原料を利用した高活性な触媒反応の開発である。この実現により従来に比べ環境やエネルギー資源に負荷が少なく医薬,電子材料などの機能性材料を生産することができれば,21世紀の目指す循環型物質社会の構築に触媒化学は大きな貢献ができると考えられる。高い触媒活性を実現するには金属イオンによる反応基質の活性化を効率よく行うことが重要な鍵であり,それは金属イオンから反応基質の反結合性軌道(多くの場合LUMO)への逆供与結合により基質の結合が不安定化されることにより達成される。その課題解決を目的に本研究では,ホスフィン系多座配位子に支持された金属間供与結合を有する複核錯体を合成し,錯体反応場としての有効性を検証する。従来の配位子からの電子供与性と比較して,金属間供与結合に由来する電子供与性は複核錯体を構成する金属の組み合わせ・酸化数・幾何構造・配位環境など様々な条件により微細にチューニング可能であり,反応基質への逆供与結合を効率的に実現できる最適条件を見いだせるため,活性の高い触媒開発に有利である。本研究課題の進展により金属間の供与結合を駆動力とする高機能・高活性な触媒反応が開発されれば,触媒設計に新たな指針を与えるものとなる。また,安価な金属の組み合わせで貴金属触媒と同等な活性を持つ触媒が開発できれば経済的であるばかりでなく,個々の元素に依存して展開されてきた材料開発を金属イオンや配位子の選択で構成される分子化学に変換する点で学術的に重要な意味を持つ。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規多座配位子として,中央のメチレン鎖中に窒素原子を導入した新規四座ホスフィン配位子を合成した。この配位子は窒素原子を導入していない配位子から合成されたロジウム2核錯体との反応性に違いがみられることが明らかとなった。また,四座ホスフィン配位子の中央のメチレン鎖長やリン上の違いにより合成された銅ヒドリド錯体の構造や反応性に大きな違いがみられることが明らかとなった。(Inorg. Chem. 2018)さらに,これらの研究の過程で四座ホスフィン配位子で支持された銅2核中心がギ酸の分解反応による水素発生触媒として良好に働くことを見出した。これまでに知られているギ酸の分解反応は貴金属触媒を用いたものが数多く報告されているが,銅触媒を用いて有効に働く触媒は今回が初めてで四座ホスフィン配位子で銅2核中心を安定に保持した構造が重要であることが実験結果より明らかにすることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り新規PN系多座配位子を用いた複核・多核錯体合成を継続して行う。これらの錯体には以下の特徴が挙げられる。1.ホスフィン系多座配位子が2つの金属イオンの配位サイトを効果的に抑え,反応場をM2イオンにのみ選択的に形成することによる複核錯体の熱的安定性の向上 2.側鎖のX1(NまたはP)原子とP原子をメチレン鎖で架橋することにより単核錯体の生成を抑制し,2つの金属イオンを結合性相互作用の起こる距離に配置できる供与結合の形成促進効果 3. M1→M2σ供与結合を介して電子を反応サイトのM2イオンへ伝達することによる逆供与結合の促進に伴う基質の活性化 4.置換基Rの変更による立体的,電子的な精密制御による金属間供与結合および反応性のチューニング作用 さらに,H30年度に見出した銅触媒によるギ酸の分解反応の知見を基に,銅2核中心で構築された反応場における触媒反応開発にも重点を置いて研究を推進する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初年度末に予定していた重溶媒の購入が在庫不足のためにできなくなり,次年度に購入することになったため。次年度140万円の執行に関しては消耗品90万円(試薬60万円,ガラス器具30万円),国内旅費15万円(成果発表),人件費・謝金15万円(研究補助),その他20万円を予定している。
|