本研究では直鎖状四座ホスフィン配位子Ph2PCH2P(CH2)nPCH2PPh2 (n = 2~4)を支持配位子とするPincer型の同種・異種金属複核錯体の系統的な合成及び反応性を検討し,金属間の協同効果の発現された反応性を見出すことを研究目的とする。その過程でPh2PCH2P(CH2)nPCH2PPh2の配位子を用いて銅ヒドリド錯体の合成を検討したところ,中央のメチレン鎖長やリン上の不斉の影響により3~6核の様々な構造を有する銅ヒドリド錯体が得られてくることが分かった。これらの銅ヒドリド錯体と二酸化炭素との反応性を検討したところ,meso-Ph2PCH2P(CH2)4PCH2PPh2から得られた銅ヒドリド錯体[Cu6H2(meso-Ph2PCH2P(CH2)4PCH2PPh2)3(RNC)2](PF6)4のみが二酸化炭素に対する反応性を示し,四座ホスフィンの構造が銅ヒドリド錯体の反応性に大きな影響を与えることが分かった。さらに,このヒドリド錯体がギ酸を分解し水素と二酸化炭素を生成する優れた触媒活性をもつことが分かった。ギ酸からの水素生成はIrなどの貴金属触媒を中心に盛んに研究されているが銅触媒を用いて高い触媒活性を有する例はこれまでに報告されていない。反応条件の最適化やDFT計算による反応経路計算より,触媒活性種は四座ホスフィンの内側のリン同士,外側のリン同士でそれぞれ銅イオンを架橋した非対称銅複核錯体であることが示唆され,複核銅中心が協同的に相互作用することにより優れた触媒活性を示すことが明らかになった。これらの知見は四座ホスフィン配位子が安定に非対称な銅複核骨格を保持することにより誘起された金属間の協同効果により触媒反応が進行しており,四座ホスフィン配位子の有用性を示すことができた。
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