我々はこれまで、窒素循環サイクルの一部である一酸化窒素還元酵素(NOR)に着目し、二核ルテニウム錯体を用いてNO還元サイクルを達成した(2NO + 2H+ + 2e- → N2O + H2O)。本研究では、同じ二核ルテニウム錯体を反応場とし、亜硝酸還元酵素(NIR)の機能である亜硝酸イオン(NO2-)からアンモニアへの変換(NO2- + 7H+ + 6e- → NH3 + 2H2O)を合成化学的に達成させることを目的とする。これまで、ニトリト架橋錯体→NO架橋錯体→ニトリド架橋錯体の変換に成功し、また最後のニトリド架橋錯体からニトリト架橋錯体への変換反応にも成功し、アンモニアの発生も確認した。これにより、亜硝酸イオン還元サイクルを達成した。 亜硝酸イオン還元サイクルのDFT計算を行ったところ、ニトリト架橋錯体からNO架橋錯体への変換は、発エルゴン的に進行することが分かった。また、NO架橋錯体からニトリド架橋錯体への変換は、当初想定した反応機構とは異なる経路で反応が進行していることが分かった。 単離したニトリド架橋錯体は、珍しい屈曲型の構造様式をとっているため、架橋ニトリド配位子の反応性には興味がもたれる。しかし、ニトリド架橋錯体には、置換されやすいアクア配位子が配位しているため、置換されにくい配位子への交換反応が必要となる。前年度、配位子交換反応を行ったころ、アセトニトリルやイソチオシアネートが配位した錯体が得られた。しかし、これらの配位子では、置換しやすいあるいはそれ自身が反応してしまうという欠点がある。そこで、架橋ニトリド配位子の反応性に特化させるために、他の配位子を検討した。クロリドあるいはブロミド配位子の導入に成功し、ブロミド錯体ではX線構造解析に成功した。アセトニトリル錯体と同様に、ブロミド配位子と元のクロリド配位子とはトランソイドの配置であることがわかった。
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