研究課題/領域番号 |
17K05814
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
西岡 孝訓 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (10275240)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 炭素硫黄結合 / N-ヘテロ環カルベン / 触媒 / 金属錯体 / 糖 |
研究実績の概要 |
N-置換基がアセチル保護したD-グルコピラノシル基で架橋部位がメチレンあるいはエチレンのビスN-ヘテロ環カルベン配位子をもつパラジウム錯体を触媒として用いた炭素-硫黄結合生成反応の検討を行った。 最初に、これまでの報告例との比較のため、基質として4’-ブロモアセトフェノンとp-トルエンチオールを用いた反応を有機溶媒中で行ったが、アセトニトリル中では、反応基質が触媒無しでも反応が進行することがわかった。さらに、4’-ブロモアセトフェノンのかわりに、より反応性の低い4’-クロロアセトフェノンを用いた場合でも無触媒で反応が進行することがわかった。ちなみに、これらの基質については、2017年に、可視光照射により無触媒で反応が進行することが報告された。 無触媒反応では転化率がほぼ100%であるが、収率が70%程度であった。それに対しパラジウム錯体存在下での反応では、基質の転化率が無触媒反応の場合よりも低く、60~90%となるが、収率は60~80%であり、転化率に対しての収率が向上することがわかった。これは、基質の分解反応か副生成物の生成反応がおさえられているものと考えられ、反応性生物の収率向上につながるものである。 また、可視光照射により無触媒で反応が進行しない基質を用い、合成したパラジウム錯体を触媒としたC-S結合生成反応についても検討したが、今回合成した錯体では、反応は進行しなかった。そこで、糖修飾三座配位子を用いたパラジウム錯体や、糖修飾N-ヘテロ環カルベン配位子をもつロジウムあるいはイリジウム錯体の合成を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでに、錯体に水溶性を持たせるために糖部位を導入したビスN-ヘテロ環カルベン配位子前駆体を合成し、そのパラジウム錯体を得ている。これらのビスN-ヘテロ環カルベン配位子は、二つのN-ヘテロ環カルベン配位子部位をメチレン鎖で架橋した構造を持ち、メチレン鎖の長さにより、金属錯体を形成した際に立体的に嵩高い糖置換基の位置が調整できる。これまでに、エチレン鎖で架橋したビスN-ヘテロ環カルベン配位子をもつパラジウム錯体の合成法は確立されていたが、炭素数が一つ短いメチレン鎖で架橋されたビスN-ヘテロ環カルベン配位子をもつパラジウム錯体は同様の合成法では合成できていなかった。今回、合成法を改良することによってそのパラジウム錯体を得ることができた。 得られたパラジウム錯体の炭素―硫黄結合生成反応に対する触媒活性を評価するため、Chin. J. Chem.で報告されていた基質4’-ブロモアセトフェノンとp-トルエンチオールを用いて反応を行った。しかし、これらの基質は触媒がなくても反応が進行することがわかり、さらに反応性の低い4’-クロロアセトフェノンを用いても進行することがわかった。現在、触媒的炭素-硫黄結合生成反応に適した、より反応性の低い基質の探索を行っている。また、金属錯体存在下での反応では、副生成物の生成あるいは原料基質の分解が抑制される結果が得られている。 並行して、パラジウム以外の金属を用いて触媒となり得る錯の体合成を試みた。金属ソースとしてロジウム、イリジウム、白金を用いてビスN-ヘテロ環カルベン配位子前駆体と反応を行い、錯形成を確認した。今後、これらの錯体の単離、構造解析、触媒活性の評価を行っていく。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究において、当初比較対象として選定していた既報の論文における実験条件に間違いがあることが判明した。この論文では、4’-ブロモアセトフェノンとp-トルエンチオールを用いた炭素-硫黄結合生成反応について金属錯体の触媒能を調査していたが、この基質を用いた場合には、触媒がなくても進行することがわかった。また、金属錯体存在下での同様の反応を行うと、副生成物の生成あるいは原料基質の分解が抑制される結果が得られている。これは、生成物の収率向上に有用な知見が得られることに繋がると考えられるため、金属錯体がどのような反応を仲介しているか、基質との等量反応を行うなどして反応中間体を単離し、構造解析を行うことを考えている。 上述のように、4’-ブロモアセトフェノンとp-トルエンチオールを用いた炭素-硫黄結合生成反応は無触媒で進行するため、金属錯体の触媒能を評価するには不適切である。そのため、より反応性の低い基質を用いて触媒活性の評価を行う。既報の論文で、反応が進行しなかったとされる基質を中心に、適切な反応基質の探索を行う。 並行して、より反応活性の高い錯体触媒の探索を行う。パラジウム錯体の場合には、パラジウム(0)に基質の酸化的付加が起こりパラジウム(Ⅱ)となる。同様の反応のためには、金属の酸化数が2変化する金属を用いる必要があるため、ロジウム、イリジウム、白金を用い錯体合成を行い、その構造と触媒活性について調査する。さらに、得られた錯体を用いて、水中での触媒反応の調査を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初比較対象として選定していた既報の論文における実験条件に間違いがあることが判明したため、使用する予定であった試薬、溶媒、器具類の購入費が少なくなった。繰り越し分は、本年度に行えなかった実験を次年度に行うため、これに用いる試薬、溶媒、器具類の購入費として使用する。
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