研究課題/領域番号 |
17K05814
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
西岡 孝訓 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (10275240)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 炭素・硫黄カップリング / 糖 / N-ヘテロ環カルベン |
研究実績の概要 |
昨年度に合成し、水中での鈴木-宮浦クロスカップリング反応の触媒となることを確認した糖修飾N-ヘテロ環カルベン(NHC)配位子をもつニッケル錯体を用いて炭素-硫黄カップリング反応を試みたが進行しなかったため、新たにロジウムを金属中心としてもつ糖修飾N-ヘテロ環カルベン錯体を合成した。ロジウムの金属ソースとしてシクロオクタジエン、ノルボルナジエン、カルボニル配位子をもつクロロ架橋二核錯体を用い、銀錯体を経由する方法で行った。糖修飾NHC配位子とそれぞれのジエン配位子あるいはカルボニル配位子をもつ錯体の生成を核磁気分光法で確認した。また、溶液中での安定性を調査し、シクロオクタジエン配位子をもつ錯体が安定であることを確認したため、まずこの錯体を用いて鈴木-宮浦クロスカップリング反応の触媒として機能するかを調査し、触媒回転数は低いもののカップリング反応が進行することを明らかにした。これにより触媒反応サイクルの最初の段階である酸化的付加反応が進行すると確認できたため、次にこの錯体を用いて炭素-硫黄カップリング反応に適用したが反応は進行しなかった。原因を探るため、鈴木-宮浦クロスカップリング反応の触媒回転数が低い理由を調査した結果、反応後にもこのロジウムシクロオクタジエン錯体がかなりの割合で残っていることが確認された。そのため、触媒としてはたらく活性種の生成が少なく、鈴木-宮浦クロスカップリング反応の触媒回転数が低くなったと考えられる。 また、単核錯体では炭素-硫黄カップリング反応が進行しにくいため、多核錯体の系に拡張することとし、新たに硫化物配位子をもつ三核錯体を合成した。この錯体には、白金NHC基のほか、シクロペンタジエニルロジウム基、白金ビピリジル基を組み込みこんだ。その結果白金NHC基だけやシクロペンタジエニルロジウム基だけの三核錯体よりも反応活性であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
昨年度に新たに合成し、鈴木-宮浦クロスカップリング反応で触媒活性が確認されたニッケル錯体を用いても炭素-硫黄カップリング反応は進行しなかった。ニッケルはより置換活性なため、NHC配位子の脱離が容易に起こることが原因と考えている。パラジウム錯体を触媒として用いた炭素-硫黄カップリング反応が進行しなかったために、より硫黄との親和性が低いニッケル錯体を用いたがこれもうまくいかなかった。 次に、硫黄との親和性がパラジウムより低く、ニッケルよりも支持配位子との親和性が高いと考えられるロジウム錯体の活用を考えたが、新たに合成したロジウムNHCシクロオクタジエン錯体では、安定性が高すぎたため、シクロオクタジエン配位子の脱離による触媒活性種への変換が容易に進まないことがわかった。より脱離が進行しやすい脱離基を用いる必要があると考えている。 炭素-硫黄カップリング反応触媒に適した系が見つからなかったため、単核錯体の系だけでなく多核錯体の系に拡張することを企画し、新たに硫化物架橋配位子をもつ混合金属三核錯体の合成に成功した。今回合成した白金イオン2つとロジウムイオン1つをもつ三核錯体はこれまで合成された三核錯体より反応性が高く、ロジウムイオン部位で小分子と反応する。さらに酸化還元活性であるため、還元により硫化物配位子部位の反応性がさらに増大すると期待できる。 以上のように、炭素-硫黄カップリング触媒能を示す錯体は得られていないが、新規ロジウム錯体の合成に成功し、触媒活性種の生成を促進するための改良点が明らかになった。また、多核錯体の系への展開のための新しい硫化物架橋三核錯体の合成にも成功した。
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今後の研究の推進方策 |
単核錯体の系はロジウム糖修飾N-ヘテロ環カルベン錯体について検討を行う。シクロオクタジエン錯体は安定で触媒活性種の生成が効率的に進行しないことがわかったので、より不安定であったノルボルナジエン錯体とカルボニル錯体について単離生成を行い、鈴木-宮浦クロスカップリング反応と炭素-硫黄カップリングの触媒としての利用を試みる。 また、新たに合成した硫化物架橋配位子をもつ混合金属三核錯体を用いて炭素-硫黄結合生成の可能性を探索する。硫化物配位子部位の電子密度の増大が炭素-硫黄結合の鍵となることが考えられるため、炭素ソース存在下での電気化学的還元を行う。これまでに合成しその構造を明らかにした白金-白金―ロジウム錯体はロジウム部位での反応が期待できる。さらに白金と同族のパラジウムに置き換えた三核錯体の合成を行い、これらの錯体を用いた反応も検討する。さらに、比較のため、以前に合成した硫化物架橋配位子をもつM2M’型についても同様の検討を行う。 以上に加え、基質や触媒反応条件についての検討も行う。これまでは主に有機チオール化合物とハロゲン化アリールのカップリングについて検討を行ってきたが、無機硫黄ソースを用いた反応についても調査を行う。特に三核錯体は酸化還元活性であるため、硫黄ソースとして硫黄単体を用いた反応を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の企画段階で参考にした既報の論文に記載されていた基質が無触媒で炭素-硫黄カップリング反応が進行するという誤りが本研究の初年度に明らかとなり、基質や反応条件に想定外の時間を費やすことになった。さらに、無触媒では反応が進行しない基質では、本研究で用いたパラジウム錯体は触媒としてはたらかないことが明らかとなったため、新たに硫黄との親和性がより低いニッケル錯体やロジウム錯体へ展開することとなり、計画通りに研究が進行しなかった。これにより、使用する予定であった試薬、溶媒、器具類の購入費が少なくなった。 また、年度末に研究発表のために参加を予定していた学会がコロナウィルス感染症拡大のため中止となり、旅費の執行ができなかった。 繰り越し分は、本年度でこれまでの遅れを取り戻すための消耗品費として、またより多くの成果発表を行うための旅費として 使用する。
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