研究実績の概要 |
我々はこれまでに、ルテニウム-ビピリジン錯体を触媒とする光化学的CO2還元反応において、反応生成物である一酸化炭素およびギ酸の比率が触媒濃度に依存して変化し、高濃度条件下でギ酸生成が増加することを見出している。このことは触媒高濃度条件下ではルテニウム錯体が二量化したダイマー錯体を形成し、単核錯体と異なる反応性を示すためと考えているが、その詳細はまだ明らかとなっていない。本研究では、ルテニウム錯体触媒を連結し二量化しやすくすることによって、光化学的CO2還元反応における触媒活性がどのような影響を受けるかについて検討する。また、同様にダイマー錯体を形成してCO2還元を触媒することが報告されているマンガン錯体についても検討することを計画している。 平成29年度は、比較のためにビピリジン配位子の異なる位置にメチル基を有するルテニウム-ビピリジン錯体を合成し、その触媒活性を検討した(ChemPhotoChem, 2018, 2, 314-322)。6,6’-位に導入した誘導体はダイマーを形成せず一酸化炭素が選択的に生成した。4,4’-と5,5’-誘導体は触媒低濃度条件では活性が類似していたが、触媒高濃度条件では5,5’-誘導体が高活性であった。高濃度条件では触媒に供給される電子移動反応が律速過程になることから、一般的に反応速度は触媒の種類に依存しない。今回の結果は、触媒サイクル内に触媒からの逆電子移動過程が含まれていることを示唆している。 また、ルテニウム錯体を有機分子(アリール基)あるいはペプチド鎖で架橋したルテニウム二核錯体を新規に合成し、光化学的CO2還元触媒反応を予備的に検討したところ、還元生成物の生成比は触媒濃度に依存しない結果が得られた。このことは2分子のルテニウム錯体を連結することによってダイマー形成が触媒濃度に依存しなくなったためと考えている。
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