研究実績の概要 |
我々はこれまでに、ルテニウム-ビピリジン錯体を触媒とする光化学的CO2還元反応において、反応生成物である一酸化炭素/ギ酸の比率が触媒濃度に依存して変化し、高濃度条件下でギ酸生成が増大することを見出している(Chem. Sci., 2015, 6, 3063-3074)。このことは触媒高濃度条件下ではルテニウム錯体が二量化したダイマー錯体を形成し、単核錯体と異なる反応性を示すためと考えているが、その一方でメソポーラス有機シリカに担持し、二量化を抑えることが期待できる触媒においてもギ酸生成が見られる(Chem. Eur. J., 2017, 23, 10301-1030 (論文表紙に採用))など、その詳細はまだ明らかとなっていない(Coord. Chem. Rev. 2018, 373, 333-356)。 本研究では、ルテニウム錯体合成方法を改良するとともに(Chem. Eur. J., 2019, 25, 16582-16590 (論文表紙に採用))、ビピリジン配位子の異なる位置にメチル基を有するルテニウム-ビピリジン錯体を合成し、光増感分子と混合した系においてこれらの光化学的CO2還元触媒活性を検討した(ChemPhotoChem, 2018, 2, 314-322)。その結果、触媒から光増感分子への逆電子移動過程が触媒活性に影響しており、5,5’位にメチル基を有する錯体触媒は逆電子移動過程が抑えられ、高効率に作用することを見出した。 次に、ルテニウム錯体をペプチド鎖で架橋したルテニウム二核錯体を新規に合成し、その光化学的CO2還元触媒反応を検討したところ、還元生成物である一酸化炭素/ギ酸の生成比は、単核錯体と異なり触媒濃度に依存しないことが明らかとなった。このことは2分子のルテニウム錯体を連結することによって、ダイマー形成過程が触媒濃度に依存しなくなったためと考えている。
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