研究実績の概要 |
本研究では交付申請書に記載のとおり、比較的安価なd10金属 を用いて新たな長寿命励起種を複数提案することを目指すことを目的としている。 最終年度(2019年度)においては、新規発光性銅錯体として、2つのリン原子間を1,8-ナフチレン基で結合したジホスフィン配位子を含む錯体を合成し、リン原子間の結合部の共役系サイズが銅錯体の発光特性に及ぼす影響を明らかにした。また、以前から研究対象としているカルベン錯体の固体が興味深いメカノクロミズム現象を起こすことを見いだした。さらに、一部の銅錯体が光触媒反応の増感剤として機能することや、キラル配位子を含む錯体が円偏光発光を示すことなどの応用につながる成果も見いだした。 研究期間全体を通して、さまざまなd10電子配置を有する発光性金属錯体を合成することができた。銅1価錯体がその中心であり、Jhonphosなどかさ高い置換基とフェナンスロリン系配位子を有する3配位型銅錯体、拡張π共役系をもつdipyrido[3,2-a:2',3'-c]phenazine誘導体配位子を有する銅錯体、そして酸素、イオウ、セレンのカルコゲニド元素を配位元素とする上記dppaX2配位子を含む銅錯体、さらにカルベン配位子を含む銅錯体など多くの新規発光性錯体を合成することができた。 銅以外の金属種の中では一連のトリフェニルホスフィン誘導体を含む0価パラジウム錯体の研究が大きな成果である。配位子の置換基によってさまざまな色の発光を示す錯体が得られることが分かった。 これらの錯体の発光機構は密度汎関数法と時間依存密度汎関数法によって明らかにした。以上の研究によって今後の発光材料になり得る化合物を多数提供でき、また発光性錯体のデザイン上の指針を得ることができたと考えている。さらに、円偏光発光や光触媒の増感剤など当初予定していなかった応用面も見いだすことができた。
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