研究課題/領域番号 |
17K05817
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
武藤 雄一郎 東京理科大学, 理学部第一部化学科, 講師 (50453676)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 有機金属化学 / セレン / テルル / ルテニウム / ハーフサンドイッチ / セレノカルボニル / 立体化学 / イソシアニド |
研究実績の概要 |
カルコゲノカルボニル (CE) 錯体の性質を系統的に明らかとするため、29年度に合成したイソシアニド配位子(CNCH2Ts)をもつ一連のカチオン性[CpRuCE(CNCH2Ts)(L)]+錯体のX線構造解析やNMRの解析を行った。Ru-CEの結合長はCO>CS>CSe>CTeであることを明らかとした。プロトンNMRでは、イソシアニドのメチレンプロトンがカップリングしていることが確認できた。ルテニウムが立体中心であることから、メチレンプロトンはジアステレオトピックとなることがわかった。温度可変NMRの測定からこの立体化学は比較的安定であることが示唆された。キラルカラムをもちいてエナンチオマーの分離を試み、現状カチオン錯体の分離には成功していないが、塩素配位子をもつ中性の[CpRuCl(CE)(L)]錯体のエナンチオマーの分離条件の決定に成功した。 一方、CpCE 錯体とアルキンの反応からビニリデン錯体の形成についても検討した。[CpRuCO(L)]+とフェニルアセチレンの反応からは対応するビニリデン錯体が得られた。炭素二置換ビニリデン錯体の合成を目的に、アシル基をもつ内部アルキンをもちいたところ、生成したビニリデン錯体が容易に加水分解を受け、[CpRu(CO)2(L)]+が得られた。これまで合成してきたリン配位子をもつ二置換ビニリデン錯体は加熱条件でも水とは反応しないため、本研究のビニリデン錯体は反応性が高いことを発見した。ジフェニルアセチレンとの反応からは、予想に反して、アルキンの取り込みが見られず、分子内のNHC配位子が酸化と転位をうけルテニウムへ配位した構造が得られた。 対応するCS錯体やCSe錯体とフェニルアセチレンからは複数の生成物を与えることがわかり、Eが重くなるに連れてビニリデン錯体[CpRu(CE){C=C=Ph}(L)]+の反応性が高くなることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ルテニウムのカルコゲノカルボニル(CpRuCE)錯体の固体状態と溶液状態の性質を系統的に明らかとし、ルテニウム中心の立体化学が比較的安定であることを見出した。この成果については論文投稿準備中である。中性錯体についてはエナンチオマーの分離条件を確定できた。 アルキンとの反応を検討することによって、[CpRuCE(L)]錯体が類似の[CpRu(dppe)]+に比べてかなり反応性の高いカチオン性錯体であることを見出すことができた。反応相手のアルキンによっては酸化/転位を伴う分子内環化が進行することを新しく発見することができた。
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今後の研究の推進方策 |
塩素配位子をもつ中性の[CpRuCl(CE)(L)]錯体のエナンチオマーを分離し、ラセミ化挙動を調べる。現状CO錯体は、酢酸エチル中ではラセミ化が遅くエタノール中では速いことが予備的にわかってきている。類似の[CpMn(NO)(COPh)(PAr3)]におけるラセミ化速度はリン配位子に大きく依存することが知られている。これを参考にEを重くするに連れてラセミ化速度がどのように変化するかを検討する。ClをIに置換した[CpRuI(CO)(L)]についても同様にラセミ化速度の検討を計画している。 加えて、アルキンの取り込みが起こらない新規な環状錯体の形成について、NHC配位子の構造を変えることにより反応機構に関する知見を得る計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末の試薬類ガラス器具のために確保していたが、予想を下回ったため。繰り越し分を合わせて次年度に使用する計画である。
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