研究実績の概要 |
本研究は、独自に発見した「(1)酸素応答性のランタニド錯体の中で、世界最高の91%という発光量子収率を示すテルビウム(III)錯体」および「(2)蛍光とリン光の二重発光挙動を示すガドリニウム(III)錯体」を起点に、生体内応用を可能にする酸素応答性のランタニド錯体を開発するものである。研究期間内(3年間)に、「水溶性の付与」と「機能性の付与」という生体内応用におけるハードルをクリアーし、新規な酸素プローブ創製の基礎(分子設計指針)を確立することを目指している。 令和元年度は、当初の計画通り、平成29,30年度に合成した「新規発光性ランタニド錯体の基本的な物性および酸素応答機能を測定・評価し、得られた結果を新たな配位子・錯体の分子設計へとフィードバックすること(重点項目3)」を中心に研究を進めた。具体的には、「1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン(cyclen)を骨格とした配位子のプロトン付加体が光捕集能力・酸素応答性の面で優れた錯体を与える」という知見を起点に、新規に設計・合成した配位子のプロトン付加体を用いて種々のランタニド錯体を合成した。また、合成した錯体の酸素応答挙動を評価するとともに、新機能発現の可能性について検討した。その結果、cyclenを骨格とした配位子を用いて、酸素応答性のランタニド錯体を開発するための基礎を確立することができた。特筆すべきことに、ビフェニルユニットを導入した配位子のプロトン付加体より得られるテルビウムおよびガドリニウム錯体は、優れた酸素応答機能に加えて、「キラル分子に応答するという新しい機能」を有していることを見出した。この結果は、生体内に存在するアミノ酸などのキラル分子を特異的に認識できる可能性を示すものである。
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