研究課題/領域番号 |
17K05824
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
西浦 正芳 国立研究開発法人理化学研究所, 侯有機金属化学研究室, 専任研究員 (30332258)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 希土類触媒 / C-H結合活性化 / 高分子化学 / 有機金属化学 / 有機合成 / 機能性ポリマー |
研究実績の概要 |
本研究では、優れた物性や新機能を持つ高分子材料の合成や高効率な物質変換反応を目指して、希土類錯体の特異な性質を利用した高活性、高選択的な錯体触媒の開発を行っている。我々は希土類錯体(C5Me5)Sc(CH2C6H4NMe2-o)2と[Ph3C][B(C6F5)4]の触媒系を用いて、スチレン重合に連鎖移動剤としてアニソール類を用いることにより、末端にアニシル基を有するsPSの触媒的合成に成功した。本年度は、この重合反応における活性種の単離および反応性に関する研究を行い、詳細な反応機構の解明を試みた。カチオン性スカンジウム錯体にアニソールを添加したところ、アニソールの酸素がスカンジウム金属に配位したカチオン性ハーフサンドイッチ型スカンジウムモノアミノベンジル錯体(1)が高収率で得られた。この触媒系はアニソールを連鎖移動剤とするスチレン重合に高い活性を示すことから、錯体1からカチオン性アニシル錯体(A)が容易に生成するものと想定していたが、室温24時間では全く反応は起こらず、70℃の加熱で錯体1は徐々に反応するがアニシル錯体(A)の生成は確認できなかった。しかしながら、錯体1にスチレンを加えて重合反応を行うと末端にジメチルアニリンを有するポリスチレンの他に、末端にアニソールを有するポリスチレンが得られた。このことから、錯体1とカチオン性アニシル錯体Aは平衡状態で存在していることが示唆された。さらに、スカンジウム触媒系を用いることにより、ヘテロ原子(酸素、硫黄、セレン、リン、窒素)を含むα-オレフィンとエチレンとの共重合を任意の混合比で実現し、さまざまなヘテロ原子を含む高分子量の機能性ポリオレフィンの合成に成功した。さらに、α-オレフィンのヘテロ原子が金属イオンに配位して、重合反応が進行する作用機構を理論計算によって明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
単離および構造解析に成功したアニソールが配位したベンジルスカンジウム錯体は、ベンジル錯体とアニシル錯体との間で平衡状態が存在することが明らかとなった。さらに、アニソールだけではなく、ジメチルアミノトルエンが連鎖移動剤として機能することが明らかとなり、末端官能基化されたシンジオタクチックポリスチレンの効率的な合成に成功した。これは、高分子合成だけではなく、有機合成化学的にも興味深い研究成果であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
希土類触媒による新規重合反応の開発においては、まずこれまでの実験結果を踏まえて、引き続き、中心金属や配位子を適切に組み合わせて、対応する様々な希土類ジアルキル錯体を合成し、これらを触媒として用いてヘテロ原子の配位を適切に活用した精密重合および共重合反応を検討していく。具体的には希土類触媒を用いた、1,4-ジメトキシベンゼンとノルボルナジエンのC-H結合重付加反応に加え、メトキシスチレン類の連鎖逐次同時重合などによって得られた末端にアニソールユニットを有する交互共重合体や多分岐ポリマーを連鎖移動剤として活用し、様々なオレフィン類の重合反応を行い、極性ユニットと非極性ユニットを有する新規マルチブロック共重合体を合成する。
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