研究課題/領域番号 |
17K05826
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
安武 幹雄 埼玉大学, 科学分析支援センター, 講師 (70361392)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | エレクトロクロミズム材料 / 液晶材料 / 電子ドナー / 電子アクセプター / オリゴチオフェン / キノン類 |
研究実績の概要 |
有機エレクトロクロミック材料は、ポリチオフェンや金属錯体を基本骨格とするものが多く、その色調変化は単調なものが多い。また、これらを素子化した際、電極表面に薄膜した物質を電解質溶液に浸すため、液漏れ等の問題点が挙げられる。これらは高分子材料のため、アモルファス性が高く、加えて色調変化が遅い問題点を抱えている。そこで、我々は酸化および還元電位でそれぞれクロミズムを発現するアントラキノン骨格とビチオフェンユニットを持つDonor-Acceptor 型液晶材料の開発を行ってきた。本課題では、新たなアクセプター骨格を持つクロミック材料の開発とそれらにイオン性部位(電解質部位)の導入を目指し,「Donor-Acceptor 型液晶性エレクトロクロミック化合物の合成と表示素子の開発」について検討している。主に電解質部位を持つエレクトロクロミック液晶材料の開発とその素子化について行っている。H29年度は前研究内容の再確認のため、アントラキノン骨格を持つエレクトロクロミック素子の確認とその論文投稿を行い、それはElectrochemistry(2017)に掲載されている。並行して、ピレンジチオンとビチオフェン、液晶発現部位であるトリアルキルフェニルからなる液晶材料を4種設計した。その内PQBT1とPQBT2の2種の化合物の合成に成功し、その液晶評価と電気化学的特性について検討した。これらは液晶相をそれぞれ発現したものの、その温度領域は比較的高いものであった。次いでこれらのエレクトロクロミック特性を調べた。PQBT1の溶液に酸化側の電圧を印加した場合、溶液の色は赤色から青色に可逆に変化し、さらにこれを還元側に電圧を印加した場合溶液の色は赤色から黄色に可逆に変化した。これらの素子化についても引き続き検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H29年度は電気化学的な酸化と還元によりクロミズムを発現すると期待できるピレンジチオンとビチオフェン、液晶発現部位であるトリアルキルフェニルからなる液晶材料を4種設計した。その内PQBT1とPQBT2の2種の化合物の合成に成功し、その液晶評価と電気化学的特性について検討した。PQBT1のDSCの結果から、昇温過程、降温過程でそれぞれ2つの相転移が見られた。この相同定のため降温過程136 ℃の偏光顕微鏡観察から特有のフォーカルコニック組織が示された。この中間相の相構造を詳細にするため、降温過程100 ℃のXRD測定を行い、この中間相を液晶相であるヘキサゴナルカラムナー相と決定した。一方PQBT2においてもPQBT1同様の液晶相を発現し、その温度範囲は215~98℃であった。 これらのPQBT1と2の電気化学酸化還元(CV)測定を行った。CV測定において、負電位側ではピレノキノン部位の電気化学的還元に由来する可逆なシグナルが観察され、正電位側においては、ビチオフェン部位の電気化学的酸化に由来するピークをそれぞれ観測した。この結果を基にPQBT1の分光電気化学測定を行った。酸化側に電圧を印加した場合、溶液の色は赤色から青色に可逆に変化し、さらにこれを還元側に電圧を印加した場合溶液の色は赤色から黄色に可逆に変化した。PQBT2においては酸化側に電圧を印加した場合、溶液の色は黄色から青色に可逆に変化し、さらにこれを還元側に電圧を印加した場合溶液の色は黄色から濃い黄色に可逆に変化した。いずれの化合物においてもエレクトロクロミズムは確認できたものの液晶温度は何れの化合物が高温での発現であるため、それぞれの化合物の側鎖構造を変えることとしている。併せて、これら化合物の薄膜形成とそのクロミック特性について検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今回、分子設計、合成を行ったピレノキノン骨格とビチオフェンユニットからなる液晶性クロミック材料は、そのエレクトロクロミズムの特性はよく赤色、黄色、青色のクロミック特性を示すことができたものの、その繰り返し安定性やエレクトロクロミック素子の形成に関しては未だ検討が行えていない。素子形成に関しては、室温で液晶相を発現する構造の検討を行っており、それが終わり次第、素子化とその評価を行う予定である。エレクトロクロミズムの繰り返し応答性に関しては、現在、既存の機器での測定は可能なものの分光器の改良が必要なため本年度の予算により改造を行い検討する予定である。また素子形成においては今回、全て電解質溶液に溶解した化合物の測定行っており、薄膜での測定は行っていない。今後薄膜のエレクトロクロミズムの測定を行うとともに、繰り返し安定性を行う予定である。また、素子化する際の電解質については、固体電解質やゲル電解をLiouらの報告(Adv.Funct.Mater. 2014, 24, 6422-6429)を参考に行っていく予定である。併せて電解質(イオン性)部位を持つものに関してはそのまま素子形成をし,そのイオン性部位+DA型液晶だけのものと比較し,電解質(イオン性)部位の導入の有用性について検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
H29年度は予定していた顕微鏡用加熱ヒーターが値上がりのため購入できなかった。そのためH30年度に予算を繰越し、今年度早期にその購入を予定している。これにより素子加熱下でのエレクトロクロミック特性を調べることが可能となる。また、クロミズムのスイッチング速度測定のための電気化学測定装置の改良に一部予算を執行する予定である。さらに測定の際に特殊な液晶セル(ITO電極を塗布した特殊なセル)を使用する。 今回の結果を岐阜で行われる液晶学会討論会での発表および7月に京都で行われる液晶の国際学会にて発表を予定しているため、それらの学会費に経費を使用する。
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